3.好きの形はひとつだけ?

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「随分うるさい打合せだな。」 フリースペースのビッグテーブルに資料を広げて、やいのやいのうるさくしていたからだろう。 『有馬さん…』 悪い意味で熱くなった私たちの元に声をかけてくれたのは、有馬さんだった。 椅子に浅く腰掛けた。 「すみません、声が大きかったですね。」 有馬さんは椅子に浅く腰掛けて、矢野と私を交互に見て面白おかしそうに眉を下げる。 ドキッとした。 優しく眉を下げるその表情を、私はよく知っている。 上司と部下の関係性以上のところで、知っている。 「コテンパンに言われてたもんな。聞きながら、世良泣くなよ〜って思ってた。」 『もう、3年目なので…。』 この状況…。 有馬さんと私、と、矢野。 以前なら何も思わなかった3人の空間が、今となってはとても特異なものと感じてしまう。 矢野は、大丈夫なのだろうか。 気付かれないようにチラリと矢野を見ると、彼は上っ面のすまし顔で。 秘密を暴かれたあの夜のような顔色は一切現れていない。 「見ていただけます?」 そうだ、ここは職場。 情けないな、私情を持ち込まないと決めたのは私なのに。 「捕まりに来たのは俺の方だよ。」 有馬さんは私のセフレである前に、矢野の想い人である前に、 優しくかっこいい憧れの上司だ。 『定時後にすみません。よろしくお願いします。』 現を抜かすならこの場以外で関係を結ぶ資格はないよ、と自分に言い聞かせ、 私はスケッチブックと価格表をビックテーブルに広げた。
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