3.好きの形はひとつだけ?

12/12
前へ
/100ページ
次へ
「デザイン室長なのにさ、こっちの立場にも立ってくれるんだもんな。」 『私への嫌味かな?』 「違くて。視野広いしやっぱかっこいいなって。20代で室長ってうちの会社営業部でもなかなかいないじゃん。それを商品部でって、凄いよ。」 『褒め言葉が止まらないね。』 焼け付かんばかりの無垢な敬慕が、矢野から溢れ出る。 「カッケーんだもん…。」 嘘のない言葉って美しいらしい。 だって、私が吐く適当な好きや嫌いとは全然違うものに見える。 『そんなもんかね。』 「そんなもんよ。」 口調は男が男を褒めるときのソレなのに、瞳はキラキラとしていて、込められているものが憧れだけではないのだと再認識させられる。 矢野が有馬さんに抱く“好き”は、紛れもなく恋愛の好きだ。 改めて実感させられて、そして、心がちくりと傷む。 察してしまうのだ。 矢野は今までもこれからも、こうやって隠して接し続けるのだろう、と。 しまい込まれた感情はきっと日の目を見ることなく、彼の身体に沈んだまま、形にもならないまま。 私みたく身体だけの繋がりを求めることすら、出来ぬままなのだろう。 『ふうん。』 それならばせめて、気持ちを吐き出せる場所がありますように。 私が彼にとっての嘘を吐かなくても良い場所になれますように。 心でそう願うのは、同情でも好奇心でもなく、きっと情。 一緒にいて沸いてしまった情なのだ、とそんな風に思う。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加