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「デザイン室長なのにさ、こっちの立場にも立ってくれるんだもんな。」
『私への嫌味かな?』
「違くて。視野広いしやっぱかっこいいなって。20代で室長ってうちの会社営業部でもなかなかいないじゃん。それを商品部でって、凄いよ。」
『褒め言葉が止まらないね。』
焼け付かんばかりの無垢な敬慕が、矢野から溢れ出る。
「カッケーんだもん…。」
嘘のない言葉って美しいらしい。
だって、私が吐く適当な好きや嫌いとは全然違うものに見える。
『そんなもんかね。』
「そんなもんよ。」
口調は男が男を褒めるときのソレなのに、瞳はキラキラとしていて、込められているものが憧れだけではないのだと再認識させられる。
矢野が有馬さんに抱く“好き”は、紛れもなく恋愛の好きだ。
改めて実感させられて、そして、心がちくりと傷む。
察してしまうのだ。
矢野は今までもこれからも、こうやって隠して接し続けるのだろう、と。
しまい込まれた感情はきっと日の目を見ることなく、彼の身体に沈んだまま、形にもならないまま。
私みたく身体だけの繋がりを求めることすら、出来ぬままなのだろう。
『ふうん。』
それならばせめて、気持ちを吐き出せる場所がありますように。
私が彼にとっての嘘を吐かなくても良い場所になれますように。
心でそう願うのは、同情でも好奇心でもなく、きっと情。
一緒にいて沸いてしまった情なのだ、とそんな風に思う。
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