4.ホントのことは言えぬまま

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4.ホントのことは言えぬまま

例年に勝る暑さだと連日報道される7月が、あっという間に終わろうとしている。 「今年の幹事って世良たちだよな。」 『あっ、そうですよ。有馬さん出欠保留にしてたの忘れてた。』 「参加で、お願いしやす。」 『わーい、了解です。今週末楽しみですね。』 職場な手前、上司と部下のわざとらしいやり取りを交わしていく。 夏が好き。 ワクワクするような行事ごとがたくさんあるから。 その行事ごとの中にあるのが、毎年7月末の連休に商品部の若手で行う、一泊二日のバーベキュー合宿だ。 若手、と言っても30歳前後までの人が自由に参加するので、有馬さんみたいに上司も含まれていたりする。 参加する3年目の若手社員が幹事をするというルールのため、今年は私の番。 そして、矢野も。 大人になってからの外遊びって、学生の頃よりもうんと楽しい気がする。 仲のいい職場環境があるから実現することだろう。 『詳細、今日中に発信します!有馬さん、役割過多にしとこ。運転とか運転とか。』 「上司いじめじゃん…。」 『幹事様なので。』 ふふって私たちが笑い合うのに釣られ、周囲もクスリと笑ってくれる。 その誰も、私たちがベッドの中で身体を貪り合う関係とは知らないけれど。 『幹事様なので!』 ほとんど完成された日程表に有馬さんの名前を加える。 15人程度の合宿、行きの車の割り振りを、有馬さんと私を同じにして矢野を違う車両にしたことに、深い意味はきっとない。
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