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雲ひとつない快晴に海を目の前にすると、いくつになっても人ははしゃいでしまうらしい。
いい歳をした私たちが、太陽に照らされキラキラと輝く砂浜に嬉々として足を伸ばす。
片手には、缶ビールを持ちながら。
心配していた天候にも恵まれ、何の問題なく開催された夏合宿。
普段とは違う皆の姿を見れるところも、醍醐味である。
「世良ちゃーん、集合何時だっけ?」
『え〜16時ごろには戻りますよ!17時からコテージでバーベキューですからね!』
「はいはーい!」
テンションの上がっている同僚たちの背中を見送って、私はコテージを離れる前に用意されたバーベキューの準備物を確認する。
「自由すぎない?みんな。」
『それなのよなあ。』
声をかけてきたのは、同じく幹事を任されている矢野だ。
彼は私の着替えた格好をマジマジと見るなり、茶化すように口を開いた。
「女じゃん。」
どうやら水着姿が物珍しいらしい。
確かに、家に泊まれど同じベッドに入れど、矢野は私の肌を見たことも触れたことも無いのだから。
ちょっとは惹かれてくれても良いのに、彼の心はどうやら1mmも揺さぶれてないみたいだ。
別に、揺さぶりたいわけでも無いけれど。
だから私も彼の羽織から覗く上裸に動揺してなんてやらないんだ。
見たままの薄く白い肌に意外と筋肉がついてることなんて、気に留めてやらない。
『良くないよ人の水着姿見て女じゃんとか言うの。』
「可愛いって褒めたかった。」
『ホスト…?』
「素直に受け取りな?ほら、手伝う。」
冗談めいてかわしたが、胸は少しざわついた。
可愛いなんて、涼しい顔して簡単に言うものではないよ。
恋愛感情にない私たちの関係性ですら、非日常だとこんなにもくすぐったく感じてしまうようだから。
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