4.ホントのことは言えぬまま

2/16
前へ
/100ページ
次へ
*** 雲ひとつない快晴に海を目の前にすると、いくつになっても人ははしゃいでしまうらしい。 いい歳をした私たちが、太陽に照らされキラキラと輝く砂浜に嬉々として足を伸ばす。 片手には、缶ビールを持ちながら。 心配していた天候にも恵まれ、何の問題なく開催された夏合宿。 普段とは違う皆の姿を見れるところも、醍醐味である。 「世良ちゃーん、集合何時だっけ?」 『え〜16時ごろには戻りますよ!17時からコテージでバーベキューですからね!』 「はいはーい!」 テンションの上がっている同僚たちの背中を見送って、私はコテージを離れる前に用意されたバーベキューの準備物を確認する。 「自由すぎない?みんな。」 『それなのよなあ。』 声をかけてきたのは、同じく幹事を任されている矢野だ。 彼は私の着替えた格好をマジマジと見るなり、茶化すように口を開いた。 「女じゃん。」 どうやら水着姿が物珍しいらしい。 確かに、家に泊まれど同じベッドに入れど、矢野は私の肌を見たことも触れたことも無いのだから。 ちょっとは惹かれてくれても良いのに、彼の心はどうやら1mmも揺さぶれてないみたいだ。 別に、揺さぶりたいわけでも無いけれど。 だから私も彼の羽織から覗く上裸に動揺してなんてやらないんだ。 見たままの薄く白い肌に意外と筋肉がついてることなんて、気に留めてやらない。 『良くないよ人の水着姿見て女じゃんとか言うの。』 「可愛いって褒めたかった。」 『ホスト…?』 「素直に受け取りな?ほら、手伝う。」 冗談めいてかわしたが、胸は少しざわついた。 可愛いなんて、涼しい顔して簡単に言うものではないよ。 恋愛感情にない私たちの関係性ですら、非日常だとこんなにもくすぐったく感じてしまうようだから。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加