4.ホントのことは言えぬまま

7/16
前へ
/100ページ
次へ
一泊二日の合宿はあっという間に終わりを迎えた。 家に着くまでが遠足、と学生の頃耳にしたが、本当にその通りだ。 みんなが乗る帰りの車が、無事に家にたどり着くのを祈る。 私は行き道同様、有馬さんの車に乗り込んだ。 車内の4人の中で1番年下の私が助手席に座る。 海にかかる長い橋を、グングンと走って渡ってゆく。 交わされる緩やかな会話を後頭部に背負いながら、車窓に流る景色を見ていた。 「寝ててもいいよ。」 「いや流石に室長に運転させて寝るはないですよ。」 ケタケタと同僚たちの笑い声が響く。 「でも私たちが寝ちゃったら、世良ちゃんが有馬さんの相手しといてね。」 「なら寝てもいいか〜。」 『駄目ですよ。駄目ですよ、も、違うかもしれないけれど、みんな道連れです。』 会話に入るべく、身体を少し右に寄せると、視界に有馬さんの微笑みが入ってきた。 昨夜、濁ってるように見えた彼の目は、夕日に照らされきらりと光っている。 格好良くて優しくて、セックスが上手く素敵な男。 同時に、私にそれ以上は与えてくれない男。 心からの好きとは違う男と一緒にいるのは、無駄だという人がいる。 幼かった私は、「心と身体は別物で、好きや嫌いは関係ない」と安易に男と交わってきたが、間違いだったのかもしれないな、とぼんやり思う。 今隣にいる人は、何度身体を許したって手に入らない人。 心からの好きとは程遠いところにいる男。 「でも本当、世良ちゃんと矢野にはお世話になったよ。ありがとう。」 有馬さん自身から出された名前に反応をしてしまう。 それならば、私が有馬さんと過ごす時間を全て、矢野に与うことが出来たら、どんなに良いだろう。 きっとこの思考は誰に対しても酷いものだが、そう思わずにはいられなかった。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加