4.ホントのことは言えぬまま

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「まだしてませんよ。でももう29なので…したいですね。一刻も早く。」 ああ、貴方の未来の話を聞くのは気持ちいいものではないな。 中途半端な甘い言葉をかけて、私をずっと先のない場所に留まらせるのなら、貴方もそうあるだろう、と、どこかで思っていたのかもしれない。 「良いものですけどね、大変だけど。」 既婚者がケタケタと笑って当たり障りのないことを言う。 「そう言いますよね。」 全然動揺することじゃないのに。 こんなの、全然動揺することじゃあないし、私にとっては関係もないのに。 ただの上っ面の会話、こんなやり取りに深い意味はないと分かっていながらも、心はどこか騒がしい。 有馬さん、結婚願望あるんだ。 しかも、一刻も早くしたいんだって。 そのビジョンの中には、当たり前に私は入っていないだろう。 ___矢野も、入っていないのだろう。 チラ、と矢野に目をやると、彼は柔かな表情のまま、別のグループで会話を広げていた。 しかしこの近距離だ、聞こえてないはずがない。 私ですらダメージを受けたなら、矢野はどれだけキツいだろう。 『すみません、お手洗いに。』 仕事の一環なのに、余計なことばかりを考えて変な顔色をしていないだろうか、と化粧ポーチを持って席を立った。 逃げるついでに席を振り返ると、有馬さんは未だ上っ面の恋愛話に花を咲かせていた。
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