4.ホントのことは言えぬまま

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お手洗いで鏡に映る自分の顔には、少しの陰りがあった。 懇親会に背を向けた瞬間から、キープしていられなくなった笑顔。 『いや、…誰だよ私。』 酷いな、私。 有馬さんの彼女でもなければ、矢野の彼女でもないくせに。 『はあ。』 私は誰のためにダメージを受けているのか。 情けなくて自然とため息が漏れ出る。 ポーチからフェイスパウダーを取り出して、滲むダメージを覆い隠す。 気を取り直して口角をあげ、席に戻る前にと徐にiPhoneを開けると、2つのメッセージが届いていた。 1つは、終業後に送られてきたもので、もう1つは、たった今送られてきたもの。 キリリと心臓が締め付けられたのは、並ぶ送り主の名を見たから。 有馬「今日、一緒に帰ろう」 矢野「今晩泊まりに来てよ」 違う相手からの酷似したメッセージに、身体が震えたのが分かる。 『金曜だからって、どれだけ都合いいんだか…。』 こんなの両方断りなよ、と少しの理性が語りかけるのに、 有馬さんからの懇親会が始まる前に送られた誘いも、私がお手洗いに立ってる間に矢野から送られた誘いも、 何故だろう、いつもより濃いものに思えてしまうのだ。 『、』 酔いは私を寂しがり屋にさせるらしい。 1人、ふやけた頭で答えを出した私は、片方のメッセージを既読のままスルーして、もう片方のメッセージにだけ返信を送った。
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