4.ホントのことは言えぬまま

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*** 『大丈夫?』 ふらり、とソファに座り込んだ矢野にペットボトルの水を手渡した。 「や、ちょいキツイね。あの人馬鹿酒強いから。」 ふふ、と矢野は表情を弛めた。 ふわりとした笑顔が、何故か悲しい。 私はあの時、有馬さんにだけメッセージを返信をした。 「すみませんが今日は帰ります」と。 時間をずらして乗り込んだ電車、マンションのエントランスでの待ち伏せ。 私は何も言わぬまま、矢野のマンションへとやってきたのだ。 『あー、うん…そっちもだけど。』 「いいや、まあ大丈夫。」 何、とは言わないままで交わすやり取りがもどかしい。 私、矢野のことが心配だったの。 気にしないでいようと思ったけれど、腹のそこの方でジリジリと身勝手な心配が降り積もっていく。 その歯切れの悪い大丈夫は、どう言う意味なの? と、問い詰めるのは簡単なのかも知れないが、私は口を噤む。 クローゼットを勝手に開けて、矢野の部屋着を取り出しベッドに放り投げた。 それを上手く受け取った矢野から向けられる、ジトっとした目。 長い睫毛、その表情を見入っていると、矢野は徐に口を開いた。 「世良は、合宿の夜有馬さんと2人で良い感じだったね。」 世良は、の3文字に籠っていたのは敵意。 口調は至って穏やかなのに、有無を言わせぬ声色が私を捕えて離さなかった。
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