1.性に身体はつきものか?

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*** 『遊んでよ、って、こういうこと?』 YESともNOとも言わないままに、矢野と同じ電車に乗り、私の最寄駅を2つ通り過ぎて一緒に降りた。 よく知っているのは、よく利用しているから。 有馬さんが、この街に住んでいるから。 会話のない帰り道で、私は一種の覚悟を決めたはず…だったのに。 初めて訪れた1Kのマンション、ボタニカルなテイストでまとめられた矢野の部屋。 置かれているアロマオイルだろうか、フルーツのような甘い匂いが薄く広がる。 テーブルに並んだ缶チューハイとジャーキー、チョコレートビスケット。 2人の手には、ニンテンドースイッチのコントローラが握られている。 「俺、ジワジワ攻めるタイプなの。」 遊んでよ、なんて言うからてっきり身体を要求されたのだと思い込んでいた。 電車の中で咄嗟に、身に付けている下着を脳内で確認まで行ったが、不要なものだったらしい。 __お前の秘密を黙っててやるから、代償は身体で払えよ。 だなんて、いつの日か女性漫画で読んだような展開になると思っていた私は、拍子抜けしたままスマブラでピカチューを使い、カービーと戦っている。 「案外強いね。」 『散々やったもん、中学のとき。』 「キューブ?」 『いや、Wiiでやってたよ。』 たまに肘が当たる距離。 2人の顔は同じ方向を向いていて、視線が触れることはない。 男の部屋で、前戯としての映画鑑賞やパーティーゲームは経験したことがあるが、このパターンは新しい。 「男みてー。」 ケラケラと矢野が笑うから、状況を勘違いしてしまいそうだ。 この場には男も女も居らず、色香なんてものは存在しない、と。
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