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日付が変わり2時間が経った頃、シャワーを浴びて化粧を落とし、矢野のTシャツに身に包んだ。
使われている柔軟剤は私のとは違うもので、これが1番他人の家に来たことを感じる瞬間。
先にシャワーを済ませた矢野は、ベッドに寝転び携帯を弄っている。
彼が身に着ける色違いのTシャツからは背中がチラリと覗いていた。
会社で接していても分からない、細いが筋肉質な腰付きに、小さく息を呑んだ。
『同期の前で素っぴんになるなんて。』
「全然わかんない。化粧してた?」
『それはそれで失礼よ。』
「可愛いって言ってるの。」
慌てて自分の弱いところを晒すように頬をつねって見せたが、振り返った矢野は風呂上がりの私を見ても顔色1つ変えない。
まるで古くからの友人のような扱いを受け、分からなくなってしまった。
一体私は何をしに、ここに来たのか、と。
座る場所が見当たらない。
普段なら迷わずベッドに腰掛けるが、この場合の正解など私は知らなかった。
私が躊躇っているのに気付いたのだろう。
矢野は布団を捲って手招きをする。
「こっち、一緒に寝よ。」
相変わらず矢野に色気を感じることはなく、私はおずおずと遠慮がちにベッドに手を沈める。
私の体重を受けてギッと軋んだベッドは、若干の温かみを帯びていた。
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