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十.
そんな日々がどれだけ続いただろうか。
しかしある日、家の外で何か鈴のようなものを鳴らす音が響き、夫がその音の主を確かめに玄関へと向かい、やがて一人の僧侶を伴って部屋に戻ってきた。
「あそこにおられますな、なるほど、これは歪みが強い。通りがかりに外からでも感じられましたからな」
その年老いた小柄な僧侶は入るなり私を真っ直ぐに見詰めてそう言うと、手にした錫杖を振り、その先端に揺れるいくつかの金属の輪がぶつかり合って、鈴のような音を部屋中に響かせた。
なんだろう、この音、ぞわぞわする、ひりひりする、とげとげする。
「あちらはあなたの奥方様でよろしいのですかな?お名前は……葉月殿、そうですか葉月殿。そしてあちらは……翔宙殿ですか、これはひどい」
言いながら老人は小脇に抱えていた編笠を床に置くと、部屋の奥の薄暗い角で立ったまま動けない私と、その前にしゃがみこんでぶつぶつと何か喋り続けている翔宙に向かって歩み寄り、再び錫杖を振った。
無いはずの体に、冷たく熱い針のような何かが大量に降り注ぐような感覚に、
「痛い!やめて下さい!」
私は思わず声を上げた。
が、老人はそれには答えず、私と翔宙に向かって淡々と、しかしながら深く強い口調で語り始めた。
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