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七.
「いやだよぅ!ママと一緒がいいよぅ!ボク一人じゃ何もできないんだよぅ!ママのうそつき!どうしてそんなところに突っ立って見てるだけなんだよぅ!幼稚園一緒に行こうよぅ!」
「翔宙!幼稚園じゃない、中学校だろう!?しっかりしろ!」
あぁ、あなた、違うの、それは涙海、六歳の子供なの。
「……私はしっかりしてるよ、父さん。大丈夫、母さんがいなくても私は大丈夫だ。なんせもう二十歳の大人なんだからね。一人で何でもできるさ。だから安心してよ、父さん。母さんももう何も心配しないで、たまにはゆっくり休んでいいんだよ」
「お前は……何を言ってるんだ?やっぱり薬が合わないのか、強過ぎるのか……?あぁもう、この辺りじゃあそこがいちばん大きな病院だったのに結局……おい、翔宙!どこを見て喋ってる?こっちを見ろ、しっかりしろ!翔宙!」
違うのよ、あなた、これは氷徹、翔宙じゃないの。
「……心配しないで、父さん。僕、我慢できるよ。泣いたりしないよ。だって僕がしっかりしてないと、ママが悲しんじゃうもんね。勉強だって一人でちゃんとするし、お料理だって手伝えるよ。学校はちょっと苦手だし、ママと離れ離れになっちゃうから行きたくないけど、でも僕だってもうすぐ六年生なんだから、頑張るよ、頑張る……ぅ……ぅ……」
これは、反二。
強がり言ってるけど本当は寂しがり屋の頑張り屋。
ごめんなさい、そんなに頑張らなくてもいいのよ。
今は、頑張らなくていいの。
一緒にいてあげるから、私はここにいるから。
「くそ、口を開けば結局またいつものこの発作か……。一体どうしたらいいんだ……。『精神的ショックにより一時的に不可解な妄想や虚言にとらわれる症状はよくある』とか言われても……俺だってつらいってのに、もうどうしていいかわかんねぇよ!『根気強く向き合って対話をし続けて下さい』?そんな余裕、俺にもねぇよ!」
口走った夫は涙を浮かべて唇を噛み締めながらキッチンへと向かい、強い酒を手に取ると自室へと消えて行った。
あぁ、あなた、ごめんなさい。
あなただって大変なのに、私は何もできず、あなたに気付いてもらうこともできず、あなた一人に全部押し付けてしまっている。
私はここで見てるだけで、何の言葉も届かない、何もできない。
ごめんなさい。
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