あなた

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あなた

僕は考えている。自分の作るものが、誰かの心に届くかどうかより、僕は本当に貴方を愛しているのか?全ての人間を愛せる訳がない。僕が書こうとしていることだって、誰かを何処かで殺しているかもしれない。だけど、良く考えてみて、僕はやはりペンを取らざるを得ない。自分がこうやって物語を書く事が夢だった。それは誰かに届けたくて書いている。けれど、その人に本当に愛があるか、自分に問うと、あまりにも薄情な答えが帰ってきて、僕は自分自身を不甲斐なく想うんだ。僕らは皆、立場も環境も国も宗教も違う。他の人は知らない。だけど、僕の周りはそうだ。だから、僕からみて周りは、多様な世界を自分なりに描いている。君が好きなものや好きなアニメ、漫画は、君の好きな世界だ。僕は複数の人達の望んだ世界を覗き込んで、見つめている。僕はそんな時にどうしても自分の心が時折、わからなくなってしまう。だから、自分の気持ちをこうやって書いて、自分自身を捉えようとしている。けれど、いつもそれは自分自身でさえ掴めないんだ。捕まえたと思ったら、肩透かしを喰らうかの様に"僕自身"が消えてしまう。人々が作る、物語を覗き込み、そこで自分自身が見えた気がした。けれど、僕は唯一無二の存在になりたい。それは、自分の気持ちがどこにあるのか確かめようとする行為に等しい。僕は周りを見ていて、なんで自分や彼女がこんなに辛い思いをして生きているのに、あなた方は、ぬかるんだぬるま湯に浸っているんだろう。僕はそんな君達を、羨ましく思っている。優先されるのは老人達。僕はずっと、彼らの叱責に耐えて生きてきた。世間の常識に疎かった僕は世界を捉えようとした。言われるがままに。気づいたことは、この世界は、政治が国を支配している事だ。僕は想う。この世界の事象を知れば、世界を手中に治めることだって出来るんじゃないか?僕は何時迄も指を加えて、黙って耐えている事が元来苦手なんだ。世界情勢を知る事は、僕にとっては、好奇心だった。世界の人々の作る創作物は、僕の心を掴んだ。その作品にあっと引き込まれた。僕はその作品の虜になって、そしてその絵に恋をした。その絵は、とても繊細で悲しみに満ちていて、涙が描かれていた。喪失の哀しみに沈む街で、健気に儚く、生きる、明日さえ見えない不安に脅かされる、イラン人。武装解除を焦がれる人民達。逃亡した、人々。そうやって、彼らがどんな想いで生きているのか、世界の実情を知らなかった。僕はずっと恵まれていた。彼らの為に何が出来るか、僕にはそんな世界を救うとか、理想に過ぎない。そんな大層な事をしろだなんて、家族も会社の人も思ってない。ただ、肩を触れて、大丈夫か?と心配している、優しい姿が、いた。僕はそうやって、支えられていた。その優しい眼差しを他者に返しているだけだ。生きている今の内に、返すんだ。元の場所へ。あるべき姿の下へ。人が落ち着く場所は限られている。皆んな、そんな世界へ行きたいのではないだろうか。 彼女を大切にして生きている。忘れたくないから。
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