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1ー9 幸せな夜に
そんなある夜のことだった。
僕は、木の匂いのする新しい我が家でくつろいでいた。
この辺りは、比較的住みやすい気候だとは思うが、それでも、夜になればずいぶんと冷え込んでくる。
暖かい暖炉の前でフェンリルのハヅキ兄さんの毛皮に包まれて、僕は、うとうとしていた。
ドラゴンのナツキ兄さんも、僕の隣で丸くなっている。
カピパラもどきのカヅキ兄さんに至っては、僕の腹の上で横たわって眠っていた。
「お前は、この森から出たくはないのか?ユヅキ」
不意に、ハヅキ兄さんが僕にきいた。
「お前の力があれば、外の世界に行っても不自由なく暮らせるだろう」
僕は、夢うつつでハヅキ兄さんの言葉をきいていた。
この森の外へ?
僕は、頭を振った。
「いや。僕は、ここがいい。僕は、このまま、みんなとここで暮らしたい」
「でも」
ハヅキ兄さんが言った。
「ここには、人は、お前の他には、ラック爺さんと、後、数人しかいない。お前は、その、寂しくないのか?」
「うん」
僕は、ふぁっと欠伸をすると、ふかふかの兄さんの毛の中へと潜り込んだ。
「兄さんたちがいるし、僕は、ここがいいよ」
「そうか・・」
ハヅキ兄さんは、柔らかい声で言うと僕の頬を舌でペロリと舐めた。
「それなら、いいんだが。私は、お前が心配なんだ。こんな、辺鄙な場所で魔物たちに囲まれて生きているお前が不憫で、な」
僕は、眠りに落ちながら考えていた。
兄さんは、優しい。
僕は、こんなに幸せなのに、さらに、僕のことを心配してくれている。
僕は、夢の中でハヅキ兄さんに笑いかけた。
「大丈夫、だよ。兄さん」
そう。
僕は、このままでいたい。
このままが、いい。
悪神の呪いが永遠に、僕のもとへたどり着かないように。
僕が、呪いから逃れられるように。
だけど。
僕は、夢の中で、背後から迫ってくる呪いの足音をきいていた。
ひたひたと迫り来るそれは、いつしか、きっと、僕を捕らえる日が来ることだろう。
それまで。
どうか、このまま、そっと眠らせて。
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