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2ー2 男の子?女の子?
その少年の名は、フランシス・アリア・カスケード。
なんでもこの魔の森があるカスケード王国の第2王子であり騎士団長なんだという。
マジか。
こんな子供が戦場に出てるのかよ?
僕は、すごくひいていた。
王国の大人たち、何やってるの?
何はともあれ、カスケード王国は、今、虚無の魔王と戦っているのだという。
「数日前、この付近で魔王軍と交戦し、敗残をきわめて撤退していたところだった。私は、その殿をつとめていたのだ」
ええっ?
僕は、さらに驚いていた。
こんな子に殿させてたの?
うん。
どうやらこの少年は、殿をつとめるうちにこの魔の森へと迷い込んでしまったらしい。
「ここは、魔の森だ」
僕は、フランシスに告げた。
「一度、迷い込んだら、決して抜け出すことはできない」
「そうか・・」
僕の言葉に気のせいか、フランシスは、ホッとしたような安堵の表情を浮かべているように思われた。
そりゃ、そうだよね。
この年で、騎士団長で、殿つとめたりしてるんだから、しんどかったよね。
うん。
この森で、ゆっくり暮らせばいいよ。
とにかく僕らは、フランシスの鎧を脱がせて風呂に入らせることにした。
なにしろ、戦場から命からがら逃げてきたというフランシスは、全身が薄汚れていてかなり臭っていた。
僕は、家に連れ帰ると彼を風呂場へと連れていった。
「ここは、風呂場だ。すぐにお湯を用意するから」
僕は、そう言うと、浴室へと向かい浴槽に水を入れた。
この家の風呂場は、広い。
浴槽も大きかった。
兄さんたちのために、大きめの風呂場にしたんだ。
みんなで入れるしな。
僕は、浴槽に水が溜まっていくのを見つめていた。
上下水道は、すでに設備していた。みんな、家で蛇口を捻ると水が出るのを驚いていた。
「もう、水汲みに行かなくてもいいのか?」
オルガが信じられないというように僕にきいた。
オルガは、僕と同じホブゴブに拾われて育てられた。ホブゴブの家の大切な働き手だった。
といってもホブゴブが働けと言っているわけではない。
オルガがすすんで家族のために働いているのだ。
僕が、もう水汲みはしなくていい、というとオルガは、すごく嬉しそうに笑った。
「お湯よ、沸け」
僕は、浴槽の水が溜まると言った。
本当は、言霊を使わなくても風呂の湯を沸かすことはできる。特殊な魔法回路を刻んだ魔石を水の中に入れておけば、すぐにお湯は沸くのだが、魔石を使うのがもったいないので僕の家では言霊で湯を沸かしている。
魔石は、とっても貴重なものなのだ。
僕は、お湯に手を入れて温度を確かめるとフランシスの方を振り向いた。
フランシスは、まだ、鎧も脱いではいなかった。
なんで?
僕がフランシスに問うと、フランシスは、僕にきいた。
「ふろ、とは、なんだ?」
はい?
僕は、はっと気づいた。
そうか、この国には、風呂の文化はないんだ。
そういえば、ラック爺も初めて風呂を見たとき、「これは、なんだ?」ってきいてたしな。
マジか。
みんな、どうやって体を清めているんだ?
「これは、風呂といって服を脱いでお湯で体を洗うものだ。わかったら、服を脱いで」
僕がフランシスに言うと、フランシスは、なんか、急にモジモジし始めた。
ええっ?
今度は、何?
僕は、しばらくフランシスの様子を見ていたが、くすっと笑ってしまった。
この子、たぶん、鎧も自分では脱げないぐらい、いいとこの子なんだよ。
王子とかいってたしな。
うん、うん。
僕は、服を脱ぐのを手伝ってやろうと手を伸ばした。
「いやぁあぁっ!!」
フランシスは悲鳴をあげてその場に座り込んでしまった。
はい?
僕が驚いていると、カピパラ、じゃなくってカヅキ兄さんが僕に言った。
「オルガを連れてきた方がいい」
「なんで?」
僕の問いにカヅキ兄さんがふっと笑った。
「しょうがないなぁ、ユヅキは」
僕は、しばらくフリーズしていたけど、はっと気づいて、オルガを呼びに走り出した。
フランシスは、男の子じゃない。
あれは。
女の子だ!
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