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2ー3 訳ありの客
きっと何か訳ありなんだろうけど、フランシスは、男装していた。
風呂に入って、女の子用のぼっさりとしたワンピースを羽織ったフランシスは、頬を赤らめて僕に言った。
「すまなかった」
フランシスは、僕の家の台所のテーブルにつくとハチミツ茶とクッキーを前にして小首を傾げた。
「これは、なんだ?」
「ハチミツ茶とクッキー、だよ」
フランシスの隣に腰かけたオルガがにこっと微笑んだ。
「おいしいから、食べてみな」
フランシスは、琥珀色のハチミツ茶の入った木製のカップに手を伸ばすと一口飲んだ。
「・・甘い・・」
「クッキーも食べてみて」
フランシスは、クッキーをカリッと一口食べて、ほぅっと吐息をついた。
「おいしい・・」
「そうだろ?」
オルガが嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「これ、全部、ユヅキが作ったんだぞ」
「えっ?」
フランシスがじっと僕のことを見つめた。僕は、にっこりと優しく笑った。
「もっと食べて。まだ、いっぱいあるから」
こくり、と頷くと、フランシスは、飢えた獣のようにクッキーを貪り始めた。
彼女は、口いっぱいにクッキーをほうばり、咀嚼しながら涙を流していた。
オルガは、フランシスの背を撫でてやりながら、言った。
「お腹、すいてたんだ」
フランシスは泣きながら頷いた。
きっと、1人戦場を逃げてきたのだ。
こんな女の子が。
さぞかし怖かったのだろう。
「あの・・よかったら、シチュー、余り物だけど食べる?」
「ムグムグ・・いたらきまひゅ」
必死に食べながら答えるフランシスに、僕は、暖炉にかけてあった鍋の中のシチューを杓子ですくって木の椀に入れるとフランシスに渡した。
フランシスは、それを見る間もなく食べると、やっと一息ついた。
「・・おいしかった、です・・」
フランシスは、小声で呟いた。
「ほんとに、こんなおいしいスープ、食べたことない」
「ぺルの実を擂り潰したものに野菜を入れて煮ただけのものだからなぁ。兄さんたちが狩りから帰ってきたら、もっと何か作れるんだけど」
今日は、週に一度の狩りの日だ。
フェンリルのハヅキ兄さんとレッドドラゴンのナツキ兄さん、それにオークのみなさんが森へ魔物を狩りに行っている。
フランシスは、空腹が和らいだためか、うとうとし始めた。
僕たちは、フランシスを客用の部屋へと案内してやり、休ませることにした。
「・・ありがたい・・」
フランシスは、倒れ込むようにベッドへと寝転ぶとすぐに寝息をたて始めた。
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