1 お兄ちゃん!転生先までついてこないで!

2/9
194人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
1ー2 ええっ?無職ですか? 「神の名のもとに、この者に成人の祝福を」 そう言ってラック爺が僕の頭にそっと手を置いたとき、僕は、自分が転生者であることを思い出した。 バチンっ! 全てを拒むような衝撃が走り、ラック爺が手を引っ込める。 「そんな、バカな・・神の祝福が、職業もスキルも、何も、ない、なんてことがあるわけが・・」 僕の目の前に僕自身のステータスが開かれた。 僕の職業は・・ 無職。 つまり、神は、僕になんのスキルも与えるつもりはないということだった。 いいさ。 僕は、意識が遠退くなかでにやっと笑っていた。 僕は、所詮、神殺しだ。 どんな祝福も、もう、与えられることは、ないのだ。 「佑月は、もし、別の人生があるなら、何がしたい?」 その少女は、僕にきいた。 色の白い、長い黒髪の美しい少女は、かつての僕の幼馴染み、恋人の尾野 マチカだ。 マチカは、僕を覗き込んできいた。 「ねぇ、何がしたいの?佑月」 「僕は」 僕は、答えた。 「もし、もう一度、人生があるなら、そっと静かに暮らしたいな。田舎で、田畑を耕して、大切な人と暮らしたい」 「そうなの?」 そう。 どんどん、少女の顔が醜く歪んでいく。 「わたしを殺したくせに、あなただけ幸せになるなんて許せない!」 ゆるぅさなぁい 黒い職種のようなものが少女から延びてくる。 僕は、それから逃れようと背を向けて走り出した。だが、それは、どこまでもどこまでも僕を追ってくる。 僕は、恐怖にかられて、叫んだ。 「た、たすけてっ!兄さん!」 僕が息をあらげて目覚めると、側に巨大な狼が横たえていた。 その狼は、僕を包み込むように横たわっていた。 「どうした?ユヅキ」 僕は、モフモフした柔らかい毛並みに包まれて、その温もりにホッと吐息をついた。 「な、なんでもないよ、ハヅキ兄さん」 僕は答えると、そのフェンリルのつやつやの黒い毛並みの中へと潜り込んだ。 うん。 ハヅキ兄さんの毛に包まれて眠るなんて、子供の頃以来だな。 なぜか。 そう思ったとき、涙が溢れてきた。 ああ。 僕は、全てを思い出してしまった。 自分がかつて、全ての不幸の元凶だったことを。 僕のせいで兄さんたちは、死に、マチカも悪神に取り憑かれてしまった。 僕は。 ほんとに、生きてていいの? 「どうしたんだ?ユヅキ」 僕の胸元からひょこっと小さなドラゴンが顔を出した。 「なぜ、泣いている?」 「な、なんでもないよ」 僕は、慌てて涙を拭った。 「大丈夫?ユヅキ」 フェンリルのフサフサの毛並みの中から、なぜか、カピパラが顔を出して僕にきいた。 うん。 カピパラ、だな。 なんか、その間抜けな感じのする顔を見ていると、僕は、ホッとして笑いながら言った。 「ほんとになんでもないんだよ、カヅキ兄さん」 僕は、なんだか、安心して眠くなってきていた。 瞼が重くなる。 僕は、そのまま目を閉じると眠りへと落ちていった。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!