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昔 東京の片隅で 第4話
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サチが小学校に通う途中に、ちょっとした大きさの畑がありました。
昔はそこで、いろんな野菜が栽培されていたようなんですが、今は手入れがされてなくて、荒れ放題になっています。
でも暖かくなるとその畑には、つゆ草、オオイヌノフグリ、カラスエンドウ、たんぽぽなどが咲き誇っていて、サチはその花たちを眺めるのが大好きだったのです。
でも、今は冬。
荒れた畑には、何の花も咲いていません。
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ある日、サチがいつものようにその畑の前を通ると、その畑にゴミが捨ててあるのに気づきました。
そのゴミは何かが入っていたレジ袋、ペットボトル、空き缶などでした。
サチはその畑の前を通るたび、それらのゴミが増えていくので、すこし不愉快になっていました。
いったい誰が捨てて行くんだろう。
自転車で通学する、中学生だろうか。
徒歩で学校に向かう、小学生だろうか。
そんなある日、サチは畑に青いビニール手袋が捨てられてあるのを見つけました。
どうやらその畑の近くに、大きな食品加工工場があるので、そこで働いている人が捨てて行ったに違いありません。
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サチはその畑のゴミのことを、ママに話しました。
するとママはサチに、どうして畑のゴミが増えるのか、優しく教えてくれました。
アメリカのジョージケリングという偉い先生がね、ずいぶん前、『割れ窓理論』という説を発表したことがあったの。
それはね、誰も住んでないお家や建物でガラス窓が一枚割れていて、それをそのまま放っておくと、ガラス窓がどんどん割れていってしまう、ということなの。
サチはその意味がよく分からず、黙っていると、ママが言葉を続けました。
だからサチ。あなたはその畑のゴミをどんどん拾って、きれいにしなさい。
そうするともう、誰もゴミを捨てる人なんか、いなくなるわよ。
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サチはその言葉に勇気づけられて、畑のゴミを拾うことにしました。
でもひとりでは恥ずかしいので、いつも一緒に遊んでいるマリちゃんにお願いしました。
今日わたし、畑のゴミを拾うから、マリちゃんはそばで見ていてね。
見ているだけでいいからね。
サチはマリちゃんにそうお願いして、畑のゴミを拾い始めました。
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ゴミ拾いを始めたら、畑は思ってた以上にゴミがありました。
草むらの奥には、今まで気づかなかったペットボトルや空き缶があって、持ってきたスーパーのレジ袋では、入りきれないほどでした。
でも途中からマリちゃんも手伝ってくれたので、少し助かりました。
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持ち帰ったゴミはママに手伝ってもらって、分別しました。
ペットボトルや空き缶は飲みかけのものが多くて、おまけに泥で汚れているから、きれいにするのが大変でした。特のペットボトルは飲み残しを捨てたり、ラベルを剥がさなければならなかったので、きれいにするのに、時間がかかりました。
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こうして畑のゴミはきれいに片付いたのですが、数日後にはまた、紙ゴミが捨てられていました。
さらにその翌日には紙パックジュースの空き箱、タバコの空き箱なども捨てられています
サチがママにそのことを話すと、ママはきっぱりと言いました。
サチ。ここで諦めてはダメよ。いつかきっと誰もがサチのことを分かってくれて、畑にゴミを捨てる人なんかいなくなるから。
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サチはママの言いつけを守って、来る日も来る日も、畑のゴミを拾い続けました。
すると畑に捨てられるゴミは、徐々になくなっていきました。
そんなある日、サチは気がつきました。
その畑にいつの間にか、淡いピンク色のアネモネが咲いていたのです。
そのアネモネは、全部で20本くらいでしょうか。
サチは何だか嬉しくなって、空を見上げました。
その空は、もうすぐ春が訪れることを告げていました。
サチはその空に向かって、大きく背伸びをしました。
そして思いました。
この畑はやがて、春の花でいっぱいになるんだ。
そしてゴミなんて、ひとつも落ちてない、畑になるんだ。
それからサチは空に向かって、大きな声で叫びました。
春さぁぁん。待ってますからねぇぇぇ。
《了》
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