出会いは業務用スーパー

5/40
前へ
/85ページ
次へ
「聞いているのか!」 電話越しでも分かる。見なくても分かる。頭から押さえつけるような威圧するような声で唾を飛ばしているのが目を閉じるだけで鮮明に想像できる。細く、細く息を吐き出す。ため息だと思われないように。目の前でため息をつかなくても怒鳴り散らしてくるから。 「…聞いています」 「こんな反抗的な部下はおまえだけだぞ。…明日な、パートさんのお子さんの都合で早朝出れないそうだ。明日、元々休みだったかもしれないが今日休んだし出てくれるよな」 こちらに聞いてやってる感じかもしれないけれど、もしここで断ったら先ほどの何倍もの威圧した言葉をぶっかけてくるだろう。この人は私のイエスしか聞く気はない。 そして今、はっきり分かった。私の努力はこの人に一切伝わっていなかった。労働時間にサボって遊んでいる人だっている。カフェで使う食材を勝手に使い、自分の家に持って帰る人だっている。オーナーはその現実を知って全て私に怒りをぶつけてきているんだ。私に怒鳴ることでイライラを晴らし、そして優越感に浸ってる。無能だと言って来る割には私に頼らないと営業に支障が出る状況で。…この人は私を人と見ていない。ボロボロになるまで使って駄目になったら捨てる。雑巾みたいな存在なんだ、私って。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加