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「…や」
「は?はっきり言え」
イライラした声と舌打ちが聞こえた。フーッとタバコでも吸っていたのか煙を吐き出す息遣いが聞こえる。
「辞めます、もう明日から行きません」
言うのは怖かった。だってどれだけ嫌でも心を殺して働けば生活費は手に入ることは出来たから。
「そ、そんなこと!明日からとかできると思っているのか?!」
今日一番の怒鳴り声を聞いた。なんなんだ、そっちから解雇してやるとか言ってきたくせに。こちらが眉を顰め、舌打ちしたい気持ちになる。
「でしたら明日退職届を持っていき、1か月後に辞めるという形でお願いします」
落ち着け、自分。ここで冷静を失ったら駄目だ。不自然なくらい淡々と話す自分の声を聞きながら苛立ちを抑える。
「引継ぎは?!後継者を育ててから辞めるのが筋だろ?」
焦りがあるのか苛立ちを含ませながら捲し立てるように早口で話すオーナー。仮に私が本当に無能で使えないゴミカフェ店員だったならそんな奴に教育を任せたらカフェが破滅の道に行くのは目に見えて分かるはずだろう。ただ、オーナー自身、売り上げだけを計算し、現場に一切立たない存在だ。現場だけ見たら私のほうが動ける存在なのは言いたくないだけで本当は分かっているのだろう。ただ自分で教育ができないからもっともらしいことを言って私に押し付けてくる。もう少し、私の心が生きていたなら笑っていたかもしれない。あまりにも滑稽すぎて。でも私の心は既にこのカフェと、自分の手で殺してしまった。今の私には笑えない。
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