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次の日のこと。オーナーは朝から不機嫌だったけれどまだ皆には私が辞めることは一切伝えなかったので私はオーナーが言うまでは秘密にしておこうといつも通りに仕事をした。
「先輩、木佐先輩!」
「!ごめん、ちょっとぼーっとしてた!なんだった?」
仕込みを一心不乱にやりたい気持ちだったので自分が呼ばれていることに気がつかなかった。
「ごめん、仙石君」
今、この時、私を呼んでいたのが仙石君でよかった。オーナーとかだったら絶対キレていただろうし、パートの女性陣も陰口言うだろうし。このカフェでの数少ない私の味方の仙石君。いつだってニコニコしてて、テキパキ仕事もして爽やかで話も上手で。お客さんにも従業員にもモテてモテて。私より人望があるのに今だってこうやって頼ってきてくれる、本当に優しい子なのだ。
「あ、気にしないでください。ちょっと発注について確認したいことがあったので聞いてみただけなので。こちらこそ、作業中にすみません」
ぺこりと頭下げようとする仙石君。彼がサラサラのマロン色の髪を揺らす度に香水をつけているのだろうか。少し、ほんの少しどきりとしてしまう。なんでだか分からない、彼は良き仕事仲間なのに。いや、どきりとしてる場合じゃない。
「発注の確認ね。あ、そっか。たしか今度、金曜日が祝日だから土日合わせて世間で3連休の人がいるからお客さんとして来ること見込んで少し多めに頼んだ方がいいかってことよね?」
「そうです、そうです」
何度も頷く仙石君をちらりとちらりと見てから、
「ちょっと裏の冷蔵庫とか見てくるね。頼まなくていいものもたしかあったはずだから」
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