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あれは痛いだろうなあ、と周りで見物していた大人たちも口々に言う。
「今年も容赦ねえなあ。俺が鬼役をやったときも、そりゃあ酷い目に遭わされたぜ」
「さすがに子どもが相手の時くらい手加減してやってもいいのになあ」
「いくら自分の息子だからって、あれはやりすぎだろう。まだ小学生だぞ?」
すでに経験済みの者たちによる同情の声がいくつも上がる。
鬼は『祓われるべきもの』の象徴であり、作物を枯らす日照りや嵐、人を取り殺す悪霊などのあらゆる災厄を表す。
そのため、鬼の役は毎年こうして容赦なく叩きのめされるのが昔からの習わしだった。
「うわー……痛そう。龍臣ってば本当に大丈夫かしら。ねえ笙悟――」
と、高原が再び狭野の方を見ると、それまで隣にいたはずの彼が忽然と姿を消している。
あれっと思い、未だ繋がったままの手の先へ視線をやると、彼はその場にしゃがみ込んで、地面に何やら絵を描いていた。
「ちょっと笙悟、何してんのよ。せっかくの神楽も見ないで」
「さっきの子の顔、記憶が新しいうちに描いておこうと思って。……こんな感じの子だったんだけど、舞鼓は見覚えない?」
見る見るうちに、狭野の足元には誰かの似顔絵が描き出されていく。
お世辞にも上手いとは言えないその絵は、しかし一目で女の子のものだということがわかる。
それを認識した瞬間、高原もついに我慢の限界に達した。
「……いい加減にしてよ!」
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