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感情のままに声を荒げると、さすがの狭野も驚いたように顔を上げた。
「一体何なのよ、さっきから。幽霊がどうとか女の子がどうとか、訳のわからないことばっかり言って。せっかく一緒にお祭りを楽しめると思ったのに……私と一緒にいるのがそんなに嫌なわけ!?」
思わず涙目になりながら、キッと目の前の少年を睨みつける。
だがすぐに、周囲の視線がこちらへ集まっていることに気づいてハッと我に返った。
神聖なる境内で、しかも神楽が演じられている目の前で、場違いな大声を上げてしまった。
「……す、すみません!」
恥ずかしさと気まずさから、誰にともなく平謝りし、狭野の手を放して逃げるようにその場を立ち去ろうとすると、
「!」
一瞬だけ、舞台の上の鬼と目が合った。
祓川がこちらを向いている。
まだ演目は終わっていないはずなのに、明らかにこちらへ顔を向けて余所見をしている。
いくら見物人たちが騒がしくしていたからといって、演者が途中で他のことに気を取られるのは本来あってはならないことだった。
そして案の定、余所見をした罰といわんばかりに、彼の父親が再び刀を振り下ろして制裁を加えた。
ドッ、と嫌な音がして、鬼は再び地に伏した。
その様子を横目に、悪いことをしたな――と高原は罪悪感を抱えながらも、その場を離れる足を止めなかった。
後方からはいつのまにか、花火の打ち上げられる音が響く。
(また明日、謝りに行こう……)
明日は狭野のことなんか放っておいて、もう一度この場所へ来よう。
そして祓川に謝ろう、と思った。
その行動が祓川にとってどれだけ大きな意味を持つことになるのか、このときの高原は知る由もなかった。
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