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ゆるく結い上げられた黒髪が滑らかに揺れて、その透き通るような白い顔が露わになった。
長いまつ毛に縁取られた垂れ目がちの瞳が、上品に一度瞬きしてから、こちらに視線を落とす。
互いの顔を見合わせたその瞬間、狭野はそれまで味わったことのない、急激な胸の高鳴りを覚えた。
まるで心臓を鷲掴みにされたような、甘い衝撃。
一目惚れ、だった。
見返り美人さながらの麗しい少女。
狭野はもはや息をするのも忘れて、その眩いばかりの姿に釘付けになっていた。
「あなた、私のことが見えるの?」
少女は赤く熟れた唇を動かして、妙な質問を投げかけてきた。
半ば放心していた狭野は、その声でやっと現実へと引き戻される。
「へ……? どういう意味?」
意図がわからず聞き返すと、今度は隣から、不機嫌な声が飛んできた。
「おい。買うのか? 買わないのか? 買わないなら邪魔だからさっさとどいてくれ。後ろがつかえてんだから」
「あっ、すみません。えっと、買います。小さい袋の、一つ下さい」
腹立たしげに睨め付けてくる屋台の男性から品物を受け取ると、狭野は慌てて列から抜け出した。
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