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 石を家に持って帰ってはいけない。 ※  茹だるような夏が終わり、アパレルのショップでは既に秋も越えて冬用のアウターまで売られ始めた。これから長く続く冬の到来がすぐ近くだとわかると、正直少しげんなりする。暑さは除外として夏が名残惜しい。せめて残暑がもう少し続いて、いつも「秋はあったか」と話題になる所もはっきりと訪れてほしいものだった。そうすれば夏を惜しみ続けることもなく寒くなることも幾らか受け入れやすくなりそうだ。  けれど、この時を待っていたと水を得た魚よりずっと元気になった生き物がいる。夏には数メートル置きに涼める場所を探し常に機嫌も悪く、いつも以上に爆弾と化す。そんな生き物が今や地球上でもっとも活き活きとした生物のように変貌している。  そして例年通り、何故かその髪色は徐々に明るく変化し、夏には異様に真っ黒だった髪も九月も終わりになるとハイトーンとなった。今回は珍しく、紫がかったグレージュに。  けれど反して変わらない全身モノトーンの彼、日昏(ひなき)マチは今、彼には似合わない場所の五本指には入りそうな場所で、人気のない遊具の一部に腰かけていた。残念ながら足が余って座りにくいこともなく。 「どれもこれもかれも誰も、全部同じに見える」  市内一、二を争う人の集まる場所の一角、周囲には常に大勢が買い物に集まる店が並んでそこを渡す道も広い。その道に併設された公園もまた、作られたばかりなこともあって周囲に調和して馴染んでいた。  買い物中の母親を待って遊ぶ父親と子供がやけに多い。それを見て今日が休日であることに気が付いた。そんなものが関係なくなって数年が経ち、土日も祝日も、その日の終わりか過ぎてから「そうだった」と気が付く生活にもなっていた。纐纈(はなぶさ)ヒムラは少し落ち込んだ、高校を辞めてから、もうそんなに長い月日が経っていた。 「ねえ、なんでこんな親子でお揃いコーデ多いの? あれは目印のボーダーだけど色が違うよね? あれはストライプだから色が一緒でも違うよね」 「ゲシュタルトがいってんだよお前……ストライプはもう別もんだろ」 「もうわかんなくもなるよ、おおすぎ、ボーダーおおすぎ! あ、あれは?」 「あれは子供がスカートはいてんだろ」 「でも今日日ジェンダーレスだよ」 「もういいよ、お前。一回座れ」  マチが座る動物の遊具の横、それより一回り大きな動物の遊具に、ヒムラは項垂れるように腰を下ろした。マチはライオン、ヒムラはカバの遊具だった。  休日の親子連れで賑わうような、ヒムラとマチの二人にはけして縁のない公園にいるのはほかでもなく仕事の為である。依頼人との待ち合わせ、目印は親子で灰色のボーダートップスにジーンズ、母親はそれに黄色のターバン、息子は黄色のスカーフ、けれど似たような服装の色違いの多いこと。ヒムラは探し疲れ、今に至る。 「……目がチカチカする……」 「依頼人に会うまでには復活しろ」 「俺ボーダーの服もういらない」 「持ってねえだろパンツ以外。来たぞ」 「早いよ!!」  「目が痛い!」と騒ぐヒムラを後目に立ち会がったマチの正面に、向かい側から目印の服装をした親子が近づいていた。とても華奢な母親はヒールのないぺたんこな靴の所為もあってマチより少し低いか変わらない程だった。その母親が子供の手を引いて、マチの正面に立った。 「あの、灰色の方ですか?」  マチを見るなり、その表情は明らかに陰りがかった。 ※  インターネット上に密やかに存在するそれは「灰色のページ」と呼ばれていた。  特殊な状況、問題に困った人間が検索を繰り返すとある時たった一ページだけがヒットする。  「灰色の問題でお困りですか?」そのページをクリックすると進むのは真っ白なページに一言。 「誰にも理解されない問題でお困りでしたらその内容をご記入し、送信ください。当方の範疇に当てはまるものである場合、あなたをお助け致します」  そうして状況を送信すると返信が返ってくる。そうして、理解不能な出来事を解決してくれる者が現れると。  
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