そしてふたりの暗闇

14/14
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 トキヤは何も告げずに、夏休みの終わりとともに転校した。両親の離婚があったのだと、せまい田舎だから、わたしにもそれは伝わった。  わたしはトキヤがいたということに、現実感を持てなくなった。話をしたことも、肝試しのことも、全部夢でも見ていたかのようだった。  窓際の空席を見つめ、そこにあったはずの姿を思い描く。イヤホンを挿してひとり物語にふける、静かな横顔。  わたしは昼間ひとりで、あの参道をまた歩いてみたりもした。肝試しをやったのと、同じ道なのだとは感じられなかった。  それで気づいた。  わたしの中にある暗闇──そこだけに、トキヤはいるのだ。  はじめからトキヤは、そういう存在だったのだ。  ◇  今わたしは大学生になって、歩行訓練士の道に進むべく勉強をしている。あの田舎からも当然出ていって、クラスメイトの誰にももう会っていない。  わたしは何度でもトキヤのことを思い出す。互いの暗闇を分かち合った存在を、わたしは忘れない。  トキヤのことが愛おしいと、今なら言える。  思い出すために目を閉じれば見える仮初の暗闇の中、はっきりと聞こえてくる。  ざり、ざり。  砂利だらけの参道を行く、ふたりの靴底の音。  とつ、とつ。  それと、杖先の地面を確かめる音。  そして、トキヤの楽しそうな声。  了
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!