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トキヤは何も告げずに、夏休みの終わりとともに転校した。両親の離婚があったのだと、せまい田舎だから、わたしにもそれは伝わった。
わたしはトキヤがいたということに、現実感を持てなくなった。話をしたことも、肝試しのことも、全部夢でも見ていたかのようだった。
窓際の空席を見つめ、そこにあったはずの姿を思い描く。イヤホンを挿してひとり物語にふける、静かな横顔。
わたしは昼間ひとりで、あの参道をまた歩いてみたりもした。肝試しをやったのと、同じ道なのだとは感じられなかった。
それで気づいた。
わたしの中にある暗闇──そこだけに、トキヤはいるのだ。
はじめからトキヤは、そういう存在だったのだ。
◇
今わたしは大学生になって、歩行訓練士の道に進むべく勉強をしている。あの田舎からも当然出ていって、クラスメイトの誰にももう会っていない。
わたしは何度でもトキヤのことを思い出す。互いの暗闇を分かち合った存在を、わたしは忘れない。
トキヤのことが愛おしいと、今なら言える。
思い出すために目を閉じれば見える仮初の暗闇の中、はっきりと聞こえてくる。
ざり、ざり。
砂利だらけの参道を行く、ふたりの靴底の音。
とつ、とつ。
それと、杖先の地面を確かめる音。
そして、トキヤの楽しそうな声。
了
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