4人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
残りの夏休みを、わたしたちは懲りたりすることなく、廃神社でこっそりと会って過ごした。
本殿内で小さなレジャーシートを敷いて、そこに座って、たわいのない話をする、一緒にイヤホンで朗読を聴く。本当にそれだけ。
互いしかおらず、暗闇しかないそんな場所で、トキヤは自由に楽しそうにしていた。
そうして夏休み最後の日も、廃神社で過ごしたのだ。
「ねえヒナミさん」
その日もレジャーシートに座って話していた。いつもはわたしの肘を掴んだままでいるトキヤが、手を握ってきた。
「どうしたん」
「お願い、ある」
「なに?」
「ヒナミさんから、読み聞かせてほしい」
「え?」
「短い話。本持ってきてる。ここじゃ難しいから、外に出よ」
わたしはトキヤが何を言ったのか理解していたけど、戸惑ったのだ。
「夏休み最後の思い出をもうひとつ作りたいっていう、僕のわがままや。ごめん」
そのときのトキヤの表情が見えないことを、わたしは惜しいと思った。
「……わたしなんかで、いいん?」
「うん」
わたしたちはまぶしい外に出た。本殿の階段に座って、トキヤから渡された文庫を開く。
短い話を、わたしはトキヤのために朗読した。
トキヤはまぶたを閉じて、聴き入ってくれた。読み終わるまで、何も言わなかった。
夕暮れになって、手を繋いで帰った。
いつもどおり「さよなら」と言って、普通に帰路で別れた。
最初のコメントを投稿しよう!