そしてふたりの暗闇

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 残りの夏休みを、わたしたちは懲りたりすることなく、廃神社でこっそりと会って過ごした。  本殿内で小さなレジャーシートを敷いて、そこに座って、たわいのない話をする、一緒にイヤホンで朗読を聴く。本当にそれだけ。  互いしかおらず、暗闇しかないそんな場所で、トキヤは自由に楽しそうにしていた。  そうして夏休み最後の日も、廃神社で過ごしたのだ。 「ねえヒナミさん」  その日もレジャーシートに座って話していた。いつもはわたしの肘を掴んだままでいるトキヤが、手を握ってきた。 「どうしたん」 「お願い、ある」 「なに?」 「ヒナミさんから、読み聞かせてほしい」 「え?」 「短い話。本持ってきてる。ここじゃ難しいから、外に出よ」  わたしはトキヤが何を言ったのか理解していたけど、戸惑ったのだ。 「夏休み最後の思い出をもうひとつ作りたいっていう、僕のわがままや。ごめん」   そのときのトキヤの表情が見えないことを、わたしは惜しいと思った。 「……わたしなんかで、いいん?」 「うん」  わたしたちはまぶしい外に出た。本殿の階段に座って、トキヤから渡された文庫を開く。  短い話を、わたしはトキヤのために朗読した。  トキヤはまぶたを閉じて、聴き入ってくれた。読み終わるまで、何も言わなかった。  夕暮れになって、手を繋いで帰った。  いつもどおり「さよなら」と言って、普通に帰路で別れた。
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