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「なにをそんなに話すことがあるのだ」  急ぎ望さまと別れて駆け寄った。確かに待たせすぎたのか、二紫名の傘の藤色が真っ白に変わっている。 「いろいろ……いろいろだよ!」  二紫名は私をじろじろ見てククッと笑った。そうかと思うと、急に優しい目をして腕を伸ばしてくる。  ――な、なに……?  彼の指先が私の髪を撫でる。そのまま右手を頭の後ろに回されて――。  まさか、の続きじゃないだろうか。でもだめ。今は注意を逸らせるものがなに一つない。今度こそキス……されてしまう。緊張でひゅっと息を呑み込んだ。 『私のこと好きなの?』……さっきの望さまの言葉が脳内でリフレインする。そんなわけない。ありえない。……けど、もしかして。 強風で緩んだ手元から傘が飛び、ふわっと空に舞う。だけど視線は、私を見つめる熱い瞳から逸らせない。 「に、し、な……」  その時――。 「痛っ!」  頭をパシッと三往復ほど(はた)かれ正気に戻った。な、なにが起こったの……?  今しがた起こった出来事に頭がついていかなくて瞬きを繰り返す私に、二紫名はニヤリと笑ってこう言った。 「阿呆。頭に雪が積もっていたから払ってやっただけだ」  そして金木犀が香るくらい近づくと、急に囁き声で一言。 「……それとも別のを期待していたか?」 「な、な、な!」  自分でもわかるくらい、顔が熱い。こんな時にまでおちょくるなんて、この狐、絶対私のことなんか好きじゃないよ!  満足したのか急に背中を向けて歩きだした二紫名。そんな彼を、きゅっきゅと雪を踏みしめながら追いかける。真白な絨毯に付くのは、二人分の足跡。  もうすぐ彼と出会って初めて新しい年を迎えようとしていた。けれどもこの関係は、きっとそう簡単に変わりそうもない。 「二紫名のバカっ!」  ――悔しいから、思い出したことは絶対教えてあげないんだから。
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