26.恋と愛を結んで

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 春岡には『副社長を招く方法については一任させて欲しい』と告げただけなので、啓五が来訪に応じてくれた理由が『賭けに勝った褒美』だとは思ってもいないだろう。  けれど当事者である啓五はもう知っているはず。春岡から真相を説明されて全ての事情を理解した今なら、一連の流れの中で陽芽子が啓五の感情と賭けの褒美を利用したことにも、気が付いたはずだ。  だから怒られて、嫌われて、陽芽子への告白をなかったことにされることも覚悟していた。しかし啓五には全く気にした様子がない。 「怒られるのは、むしろ俺の方だろ」  それどころか啓五の方が酷いことをしたような顔をする。鋭利な印象を与える瞳に憂いの色を纏わせ、陽芽子の心情を窺うような眼を向けてくる。その瞳と見つめ合うと、また言葉が出て来なくなる。 「悪かった……鳴海のこと。もう少し早く気付いてれば、陽芽子たちにあんな苦労をさせることはなかったのに」 「え……ううん。あれは別に、啓五くんが悪いわけじゃないもの」  そう、啓五が悪いわけではない。鳴海は一ノ宮という玉の輿を狙っていただけで、啓五は彼女の欲目に巻き込まれただけだ。啓五が指示した訳ではないのだし、何も知らなかった彼に責任があるとは思えない。 「みんなもちゃんとわかってるから、大丈夫」  それは陽芽子だけではなく、部下たちも、春岡も、隣で聞いていたシステムサポート係やギフトセンターのメンバーも理解している。啓五に非がないことは分かっているのだから、啓五が謝る必要はないし、責任を感じる必要もない。  それならば、お互いにこれ以上同じ謝罪を繰り返すのも野暮なのだろうと思う。  啓五はデートの日付を決めるやり取りをするときも、今も、陽芽子の都合を最優先に考えてくれる。陽芽子の不安を取り除くように、優しい笑顔を向けてくれる。だから彼がまだ自分を好きでいてくれるのだと、理解してしまう。
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