6388人が本棚に入れています
本棚に追加
テーブルの上のハウスダーツを手にした啓五が壁際の機械に電源を入れると、上部の画面が派手な光と音を発しながら動き始める。
「面積の広いところが書いてる通りの点数で、外側の小さい枠が点数二倍。内側の小さい枠が点数三倍。一回三投を八周繰り返して、点数が多い方の勝ち。簡単だろ?」
「う、うん」
その説明を聞いて、なんとなくルールを把握する。要するに二十四回ダーツを投げて、相手より高い点を取ればいいと言うことだろう。
しかしダーツなどやったことがないのに、遠い的に投げて上手に当たるのだろうか。そもそも届かなかったらどうしよう、と考え込んでいると、ただでさえ薄暗いフロアの視界がさらに暗くなった。
あれ? と視線を上げると、すぐそこに啓五の顔が迫っていた。急な接近に驚く暇も与えられないうちに、啓五が耳元に唇を寄せてくる。
「俺が勝ったら、陽芽子にキスしてもらおうかな」
「は……? えっ、やだよ!?」
告げられた言葉に驚き、思わず大声で拒否する。
その瞬間、せっかく忘れていたあの夜のことをまた思い出してしまう。耳元で何度も『可愛い』と囁かれて乱されたことまで思い出し、そのまま後退ってしまう。
「よーし、絶対勝たないとなー」
「し、しないってば!」
尻込みする陽芽子に対して、ジャケットを脱いで意気込んだように肩を回す啓五は、やけに楽しそうだ。
「陽芽子は何賭ける?」
にやりと笑うその表情はゲームに夢中な少年のようだ。とても本気でキスを欲しがっているようには見えない。
だから気付く。
きっと啓五は、陽芽子をからかって楽しんでいるのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!