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確かに啓五は上司だが、プライベートの時間は上下関係を気にしなくていいと言われている。もちろんその言葉を全て鵜呑みにするわけではないが、今の啓五は陽芽子の上司ではない。ただの年下の飲み友達、のようなものだ。
「……じゃあ、このお店で一番高いカクテルを奢ってもらう」
「いーよ?」
啓五は陽芽子と遊んでいるだけだ。本気でキスなんて思っていないに違いない。仮に本気で望まれていとしても、いざとなったら頬にキスぐらいで誤魔化せるだろう。たぶん。
啓五からダーツを受け取り、最初だけ持ち方と投げ方を教えてもらう。脳内でダーツを投げる状況をシミュレーションし、まずは三本のうちの一本を的に目掛けて投げてみる。
ヒュッと空を切った針先が、的の角に勢いよく突き刺さった。
「お、上手いじゃん」
啓五の言葉にうーん、と首を傾げる。上手い、と言っても刺さった場所は得点の対象外だ。これでは勝てるわけがないので、次はもう少し中央に寄せるように意識して投げる。二本目も的の外で得点にはならなかったが、三本目はどうにか的に刺さった。
投げたダーツを回収して啓五と順番を交代すると、彼の初投は十点のダブルに刺さった。上部の画面には二十と表示されている。
「わぁ、すごい!」
賭けていることをすっかり忘れ、つい啓五の腕前を褒めてしまう。さすがに慣れているらしい啓五は簡単に得点したが、陽芽子が褒めた後からは二点と五点しか加点できなかった。
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