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ダーツのときは啓五に遊び方とルールを教えてもらったが、今度はちゃんと理解している。もし簡単に勝てると思っているのならそうはいかないから、なんて勝負心に火が灯る。
「じゃあまた何か賭けるか」
「えー、もう何も思いつかないよ?」
さきほどのダーツで偶然にも勝利を収めた陽芽子は、IMPERIALで一番高いカクテルをご馳走になる権利を獲得した。けれどもう、勝利にふさわしい褒美を思い浮かばない。
「思い付いたときでいいよ。俺が負けたら、陽芽子のお願いごと何でも一つ聞くから」
うーん、と悩む様子を見た啓五は、戦利品については後から決めてもいいと言ってくれた。じゃあ別の日に違うカクテルを、なんて呑気なことを考えていると、啓五が再び笑顔を向けてきた。
「俺が勝ったら、今夜は陽芽子に添い寝してもらおうかな」
「なんでハードル上がってるの!?」
告げられた言葉に驚いて、つい大声を出してしまう。
確かにキスも困るが、頬に口付けるぐらいなら一瞬で終わる。けれど添い寝となると拘束時間も長いし、密着度も高い。啓五が眠るまでずっと傍にいるなんて、恥ずかしくて出来るわけがない。
彼の視線から逃れるように目を逸らすと、啓五が『あ、そうか』と何かに気がついたような声を出した。
「やっぱり今夜じゃなくて週末でもいい? 次の日、陽芽子とゆっくり寝てたいし」
「そこじゃない!」
しかも添い寝と言っても、啓五が寝たらお役御免になる訳ではないらしい。朝まで傍に置きたいと言われて、いよいよ負けられない戦いの様相になってきた。
仕方がないので壁のホルダーに立ててあったキューを手にすると、そのまま踵を浮かせてヒールを脱ぎ捨てる。
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