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「やった、私の勝ち!」
唖然としている啓五の目の前でさっさと最後の的球を落とす。一方的に勝負の終わりを告げて脱いでいたヒールを履き直すと、我に返った啓五が盛大に噴き出した。
「あーあ、陽芽子に添い寝してもらいたかったんだけどなー」
「だめです~」
本当に残念そうに溜息をつく啓五に、べ、と舌を出す。大人げないやり方だと思ったが、勝ちは勝ちだ。啓五もプロセスはどうあれ決着してしまった勝負に、あれこれ文句を言うつもりはないらしい。
諦めの台詞を聞いて陽芽子もほっと息をつく。この勝負に負けたら、啓五の抱き枕になるところだったのだ。そんなの、恥ずかしすぎるから。
「木曜と金曜、朝から晩まで会議続きなんだよなぁ。絶対疲れるってわかってるから、週末ぐらい陽芽子に癒されたかったのに」
「いやです~、他あたってくださ~い」
そんなに陽芽子に執着しなくても、啓五にはもっと可愛くて抱き心地のいい女性がいくらでもいるはずだ。
そう思うと、ちょっとだけ胸がむずむずする。今までにもこうやって美味しいお酒を飲みながら、ちょっとだけ大人な賭け事をして、可愛い女の子と楽しい時間を過ごしてきたのだろう。たぶん、きっと、これからも。
「何言ってんの?」
そんな想像をしてひとりでモヤモヤしていると、再び啓五の不機嫌な声が聞こえた。
「他なんて要らない。陽芽子じゃないと意味ないから」
急激に低下した声色に驚いて、思わず『えっ?』と声が漏れる。
「え……冗談、だよね?」
「……冗談?」
変に間が空いて気まずくなる前に、どうにか返答の言葉を紡ぐ。そうやって軽い口調で訊ねれば、啓五も『そうだ』と笑って流してくれる。冗談を、ちゃんと冗談にしてくれる。そう期待していたのに。
「本気に聞こえてなかった?」
逆に真剣な声で聞き返されてしまう。
低い声音にはふざけた感情が一切含まれていない。
むしろ不満げな声を出された事に気付いた陽芽子は、その質問には上手く答えることができなかった。
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