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第4話 <可愛い新入りキターー!>
今日もひたすら品出しの日々、うんざりした気持ちで
「えーと、今日は誰が来るんだっけ?」
と、パートのシフト表をチェックすると、一番下に新しい名前があった。
名前も気になったが、その仕事の入れ方も気になった。
「早番と遅番を両方週5って……」
これまでパートでそんなにシフトを入れる人なんていなかっただけに、
妙な感じがした。
「店長、新しい人入るんですか?」
「そう、明日から来てくれるって」
「随分仕事入れてるんですね……」
「なんかお金が必要みたいだよ」
店長はメールをカタカタと打ちながら言った。
熊坂よしえさんか……。
シフト表の名前にはそう書かれていた。
「ほんと、なかなか同年代の人が入って来ないなぁ」
ここのパートは一人だけ大学生がいたが、
あとはみんな40代以上だった。
次の日、
俺は早番で開店前の準備をしていると、
「失礼します……」と、裏口の扉から一人の女性が顔を覗かせた。
「か、かわいい……」
思わず声が出そうになった。
20代半ばくらいだろうか。
顔が小さくて目がぱっちりしていて、肌の透明感が半端ない。
顎ぐらいのミディアムボブが朗らかな空気感を纏っていて
ぱっと目を引く。
「はい? 何でしょう?」
ドキドキしているのを悟られないように言うと
「私、今日からパートで働かせていただく熊坂です」
明るい笑顔で彼女は言った。
「え! あなたが熊坂さん!?」
名前だけで勝手に中年以上と思い込んでいたが!!
「はい、熊坂です。 よろしくお願いします」
熊坂さんは軽く頭を下げた。
まじか!
俺は心の中でガッツポーズをした。
店が開くと熊坂さんもレジに立って
まずは袋詰めの手伝いなどから始めていたが、
明らかに客のおっさん達も色めき立っているのがうかがえた。
我ながら男って単純だなと思う……。
一日が終わり、久しぶりに気分が上がった俺は、
コンビニで発泡酒ではなくビールを買い、家路についた。
早番と遅番両方を週5って事は、
ほとんど毎日くらい、熊坂さんと一緒にいられるのか〜。
この職場に来てこれだけウキウキした事はない。
「いい流れになりますように」
そう祈りながら缶ビールと鮭弁当を
テーブルに置いて座椅子に座り、テレビをつけた。
「『マチコの部屋』か」
お団子頭がトレードマークの柳田マチコが
話題のゲストとトークをする番組だ。
「今日のゲストは中野智巳さんでーす!」
マチコが紹介をすると、
淡いベージュのジャケットを着た中野が登場した。
「またお前か!」
俺は画面に向かって毒づいた。
「中野さんは下積み時代が長かったんですよね?
挫折しそうになった事あったんですか?」
「何度もありましたよ。 でも芝居が好きで」
「下積み時代はどんな感じでした?」
「家賃3万の風呂なしアパートにバイトしながら五年住んでました。
夜中にセリフの練習してたら隣のヤバそうな人に怒鳴り込まれたり……」
そう言って中野は苦笑した。
「もう30歳なんですよね?
結婚願望はあるのかしら?」
「そうですね、月並みですがいい人がいたら結婚したいです」
「結婚したらどんなご家庭を作りたいの?」
「普通でいいです。 みんな笑っていられたらそれでいい」
「中野らしい答えだな」
そうつぶやいて缶ビールのプルタブを引いた。
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