第7話 <俺は彼女を守る!!>

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第7話 <俺は彼女を守る!!>

休日、久しぶりに実家に顔を出すと、 居間でまおみと編集社の人が打ち合わせをしていた。 まおみは「あ……」という顔をした後、 「私の部屋で話しましょうか」と、二人で二階に上がって行った。 階段を登りながら、一瞬まおみは俺を見下ろすような目をした。 498dae83-102b-4f38-8b36-db01f12acecb まおみはあれから漫画を描き続け、 最近では連載誌に作品が載るようになった。 「MAO」というペンネームでファンレターなんかも 時々届いているようだが、妹が少し名の知れた漫画家と言うことは 周りには口が裂けても言えなかった。 今となっては俺の方が冴えない兄弟だ。 俺は自分の部屋に入り、押し入れから古びた台本を取り出した。 トレインジャーの台本。 芸能界でやっていく事を諦めた今でも、なんとなく捨てられずにいた。 「あのまま続けていたら違ったのかな……」 今さら後悔しても遅いけど。 俺は台本を床に放り投げ、そのままベッドで眠りに落ちた。 ときめき四国館は時々、デパートやショッピングモールの一角、 地下街などで出張販売をすることがあり、 今月もイベント販売の予定があった。 「佐伯くん、今度の川崎の地下街での販売イベント 湊さんと熊坂さんと三人で行ってくれるかな?」 「はい、わかりました」 「二人にもその話しておいて」 店長はパソコンに向かったままそう言った。 売り場にちょうど湊さんと熊坂さんがいたので、 その事を伝えに行くと、熊坂さんは動揺したような反応をした。 「川崎の地下街って結構人通りありますか?」 「うーん、JRと京急を結ぶ通路でもあるから、 わりと人は多いけど……」 「あ、私イベントはちょっと……」 困ったように熊坂さんは言った。 やはり元アイドル説は本当なんだろうか? 素性が人にバレると何か問題があるのだろうか? 「人通りは多いけど、品出しだったらそんなに人目にはつかないよ。 それでも厳しいかな?」 熊坂さんはしばらく考え、 「それだったら大丈夫です」 と、答えた。 ときめき四国館の客層は、シニア層がメインなので、 そこまで有名じゃなければ元アイドルでもあまり人に気づかれない。 でも、川崎の地下街ともなると様々な人が行き交う。 俺が彼女を守ろう。 いつしか俺は彼女に対してヒーロー心が生まれていた。 イベント当日、川崎の地下街は予想通り沢山の人々が行き交い、 土佐ジローたまごのチーズケーキ、半田そうめん、 島の味しょうゆせんべいに、母恵夢などなど みんな名産品には目がないようで、商品は飛ぶように売れた。 その分、俺らはてんてこ舞いで、 レジに立っていた俺と湊さんも目が回るようだった。 熊坂さんも、段ボールの商品を空きスペースに並べたり、 POPを書いたりと忙しなく動いていた。 すると若い男二人組の声が耳に入ってきた。 「あれって南美咲じゃね?」 「うわ! マジ似てる!」 そういってカバンからスマホを取り出し、熊坂さんに向けた。 マズい!! 「熊坂さん! 車からおいりの入った段ボール取ってきて!」 とっさに俺が言うのと同時に、 湊さんも「お待ちのお客様! こちらのレジへどうぞ!」と、 その男どもに声をかけた。 ナイスフォロー、湊さんありがとう! そんなこんなで怒涛のイベントが終る頃には三人ともクタクタだった。 「二人ともお疲れ様! 俺はこのまま車で店に戻るけど、方向同じなら送ってくよ」 そう言うと湊さんは 「うちは反対方向だから大丈夫です」 と言った。 「熊坂さんは北品川だっけ?」 「はい」 「それじゃ店に戻る途中だから乗って行きなよ」 「それじゃ、お言葉に甘えて」 なんと、断られるかと思ったけど、乗っていくってか! 熊坂さんと二人きりになれるチャンスに 思わず笑みがこぼれそうになるのを必死で押さえた。
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