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第8話 <ほっとけないよ>
俺はライトバンの助手席に熊坂さんを乗せ、
第一京浜を都心方面に走らせた。
「熊坂さんはマキさんと拓海くんと三人暮しなの?」
「はい。
愛媛から上京してきてしばらく一人暮らししてたんですけど、
拓海ができた時にマキちゃんがうちにおいでって言ってくれて、
実家には戻らずにお世話になってます」
「そうなんだ」
実家にも戻らず従姉妹の部屋に住まわせてもらってるのか……。
しばらくお互い黙っていたが、
思い切って気になっている事を聞いてみる事にした。
「差し支えなければでいいんだけど……
あ、嫌だったら答えなくていいから!
その……拓海くんの父親って、知ってるの?
熊坂さんと拓海くんの今の生活とかについて。
熊坂さんにこんな生活させてるの可哀想じゃない。
男としてはそういうのどうなの?って思うっていうか……」
「拓海の父親はこの事は知らないです。
私が勝手に拓海を生んだんです」
そう言った後に、こう付け加えた。
「それに私、可哀想じゃないです!」
ぱっと目を見開き、眉をひそめて熊坂さんはこちらを見た。
「私がそうしたくてしたんです。 拓海を生みたかった。
拓海の顔を最初に見た時、とても幸せでした。 今もです」
「あ、ごめん……」
デリカシーのない奴だと思われただろうか?
確かにシングルマザーだから可哀想という事はないだろう。
「私と拓海の父親、どちらにとっても幸せになる方法を考えたら、
こういう形がベストだって思ったんです」
「そっか、でも拓海くんの父親を思うと
この世に自分の子供がいるって知らされてないのは、
男の立場からするとショックだし、
それに拓海くんも父親がいないのはどう思ってるの?」
そういうと熊坂さんは口をつぐんでしまった。
「立ち入りすぎたかな、ごめん」
車は赤信号で止まった。
「佐伯さんの言うとおりです。
これは私のわがままなのかもしれません。
でも全ての責任を負う覚悟はできてます。
こうやって批判されることも想定内です」
熊坂さんはそう静かに言った。
きっと並並ならぬ決心でシングルマザーになったのだろう。
彼女がそこまで覚悟している事なら俺が口出しするべきじゃない。
そう思った。
思ったけど。
「熊坂さんの思いはわかった。
でも、もし……困った事があったらいつでも俺を頼ってよ」
彼女と関わりたかった。
余計なお世話かもしれないけど、介入させて欲しかった。
そう言うと熊坂さんは
「ありがとうございます」
と小さく答えた。
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