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「よ、陽子さん」
朔太郎は仕事を終えて、自宅に戻ろうとする陽子を呼び止める。
「なんだい? 朔」
陽子が髪留めを外し、おろした髪の毛を手で馴染ませる。陽子のシャンプーの香りが朔太郎の体に届き、思わず声を詰まらせる。
「あ、いえ」
陽子が朔太郎を不思議そうな顔で見つめる。
「あー明日の祭りが不安なんだろ。自分の味を町の人に食べてもらうなんて緊張するよね」
陽子は切長の目を緩ませて朔太郎に笑いかける。白いTシャツから焼けた肌に、小ぶりな唇が笑顔を見せる。
「あ……は、はい」
「大丈夫だよ。広斗もあたしも海斗もあかりたちもみんないる。だから安心しな」
陽子が朔太郎の肩をポンポンと叩き、優しい顔で朔太郎を見つめる。
朔太郎が自分の肩に乗せられた陽子の手を取り、ギュッと握りしめる。
「……朔? 大丈夫? 」
朔太郎は陽子の体を引き寄せようと手に力を込める。陽子の心配そうな表情に朔太郎は息を飲み手を離す。
「……はい。頑張ります。お疲れ様でした」
朔太郎は顔を上げ笑顔で答えた。
「うん。お疲れ。また明日ね」
陽子が去った後、朔太郎は床に座り込み大きく息を吸い込んで肩を震わせる。
「……すみません……すみません……俺はあなたを……」
朔太郎は絞り出す様な声で1人強く拳を握りしめた。
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