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「……出来るならまたあの町に連れて行ってやりたい。毒物事件起こしてるから受け入れて貰えるか分からないけどな」
室内のこもった空気を掻き出す様に風が通り抜ける。顔にあたる風を感じながら、俺は窓に背を向けて寄りかかる。
「朔は俺の過去を言わないように隠してる。それで俺は情けないことに結局何も失えずにここに居る。だからせめて、あいつのこれからの人生が犯罪者として曇ってしまわないように……俺は助けてやりたい」
こんな偽善者みたいな事をどの口が言ってんだかと突っ込みたくなる。後で思い出したら恥ずかしくて死にそうだ。それでも朔太郎の為には瑠奈が必要で、その為にはちゃんと本心を伝えてやらなきゃならない。
「お前もここを出て俺たちのいる町に来い。薬物に詳しい医者もいる。金なんか稼げねぇけど、こんなとこで罪を悔やんで生きてるより、よっぽどいい。まぁ、俺が言えた立場じゃないけどよ……俺もカタギだから」
照れ臭くて笑えてくる。それでも瑠奈は俺の顔を見て救われた様な顔をする。瑠奈は何度を息を吸い込んで、しゃくりあげるように涙を流し、肩を震わせて小さく「ありがとう」と言った。
お礼なんて言うなよ。俺のせいで、こんな事になってたのに。やりきれない思いが、また胸の辺りにつかえる。
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