夏の終わりに

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「え……」 あかりは俺の言葉にぱっと顔を上げて、俺の顔を見ながら目をぱちくりとしている。 「結婚しよう。もう父親の役は終わり」 俺はほぐれたあかりの手を握りしめて、もう一度伝えた。 「え……だって……」 「お前がずっと幼いままでもいい。本当の俺のことを覚えてなくてもいい。目の前にいる俺がお前にとって父親でもいい……別にそんなもんはどうだっていい。お前が俺を分からなくても、今のここにいる俺を必要としているならそれで十分だ」 あかりは力が抜けたように砂の上に座り込んだ。何度も瞬きをして口を開けたままのあかりに、俺は撫でるように頬に触れる。 「あかり……俺の奥さんになって」 「……だって」 「だって? なに? 何も問題ないよ。お前はもう大人の年齢だし、俺はヤクザだったから、まだ銀行口座とか持てないけど……」 「……え? ぎんこう? 」 「……あ、いや何でもない。何で? 俺のこと好きじゃないの? 嫌? 俺のお嫁さんになるんだよ? 」 いつまでも落ち着かないあかりの顔を俺はじっと見つめる。 「……嬉しい」 あかりは首を左右にぶんぶんと振って堰を切ったように顔をくしゃくしゃにしながら涙を流し始める。 「俺のこと好きだろ? 」 「……うん」 俺は両手をあかりの顔に添えて、目を閉じて泣いているあかりの涙を親指で拭う。何度拭いてもこぼれる涙に俺は唇を付ける。 あかりが頬に触れる唇の感触に気が付いて目を開ける。俺はすぐにあかりの唇にキスをした。あかりの背中に腕を回し、頭を寄せて抱きしめる。
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