夏の終わりに

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俺の腕の中で目を擦りながら泣いているあかりを自分の体に寄せたまま、俺は首の後ろに手を回してネックレスを外す。 あかりから少し体を離して2つ付いているリングを1つ外して、またネックレスを自分の首に戻した。 リングを手のひらに乗せる。指先で持って、あかりの左手を取る。リングをあかりの薬指にはめていく。 「入るかな……お、ピッタリじゃん」 「え……これ。お父さんのやつ……」 あかりが自分のネックレスを手で触る。 「うん。あかりの首にあるやつと一緒。後でちゃんとしたの買ってやるから、とりあえずはめておきな」 あかりは息を吸い込み少し頬を緩めて、唇を噛み締める。 「……うんん。これでいい」 あかりは左手にはめられた指輪を右手でぐっと握りしめて、またくしゃくしゃになった顔で涙をこぼす。 「買ってやるっつってんのに、相変わらず言うことが変わんねぇな」 1人立ち上がってポケットからタバコを出す。風を避けるように風上に背を向けて火を付ける。 風が吹いてライターの火がすぐ消され、俺は何度もをライターをカチカチと付け直す。 波の音が声を掻き消して、俺は耳に届くあかりの声に気がつく。 「……さん? 」 「んー? やっぱり指輪欲しくなったか? 」 ようやく火のついたタバコを吸い込んで、骨を鳴らす様に首を左右に揺らす。 タバコの煙を吐き出して指にタバコを挟み、振り返ってあかりを見る。 「え? 」 心臓が激しく動揺する。 あかりは口元を少し緩ませて柔らかな表情を見せる。澄んだ瞳で座り込んだまま俺を見上げていた。 海風があかりの髪をなびかせて、あかりは髪の毛を手で押さえる。 リングをはめた左手でネックレスを大切そうに握りしめるあかりは目を潤ませる。 あの日の少し冷めた表情が熱を持ち、優しく俺に微笑む。 「……千尋さん」 俺の名前を呼ぶ声に刹那に時が戻る。
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