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ウィルフレドの所属するトリステル合衆国陸軍の合同射撃訓練は、初秋に行われる。
今回合同演習の相手として選ばれたのは、例年とは異なり同盟国の陸軍ではない。この国でクリーチャーを相手に戦う対バイオテロリズム特殊作戦部隊、通称BSOC(Bioterrorism Special Operations Command:)であった。
防弾ベストやヘルメットを身に着けナイトビジョンスコープを取り付けた訓練用の銃を持ち、バディと共に林間に放り出される超演習型の訓練である。
実践と同じ経口の訓練弾を用い、生き残りをかけた全3日間の合同射撃訓練は、陸軍の訓練の中でもっとも過酷で実践に近い。
「合同訓練のバディ今日発表だったよな」
「うん。ウィルは誰とだと思う?」
「いや……想像もつかないな。未だにあの組み合わせがどんなロジックで決定されるのかわからないし」
相部屋のヒューズと他愛もない話をしながら、ウィルは中央廊下を歩いていた。
正直このタイミングで合同訓練とはついていない。士官学校では優秀な成績をおさめ、陸軍特殊部隊訓練生に選ばれたところまでは順調だったものの、最近になってウィルは戦う目的に疑問を抱きつつああった。
今のような生半可な気持ちで取り組めば、落ちぶれた成績を取って自身のモチベーションを削ぐのは目に見えている。これまでは慢性的に訓練をこなしてきたし、厳しい訓練に打ち込むことでその疑問から目をそらしてきた。自身の家系は軍人として生きてきた者ばかりで、このようなことを相談する相手もいない。
陸軍に入る際、入隊試験を受けようと思っていたトリステル合衆国を代表する組織になら憧れの人はいるけれど、陸軍で地位を得ることを家系に背負わされたウィルに迷いは許されなかった。その結果として、いま陸軍としての自分の命に疑問を抱いているのだから、落ちるのも時間の問題だとウィル自身薄々感じている。この年度末には特殊部隊隊員への昇格試験もあるというのに。
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