11話

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11話

カーラ・ウィンストンの葬儀は国を挙げて大々的に執り行われた。 「棺の中身と対面したご遺族はさぞ驚かれたでしょうね」 からっぽのベッドの端に掛け、語り終えた婦長が儚げに微笑む。 「不老の呪いがとけた理由は、ただ単に生命活動が停止したからかもしれません。世の中そこまでロマンチックにできてません」 婦長のシビアな見解に異を唱えたのは、フラッシュを焚くのも忘れ、カーラ・ウィンストンの知られざる晩年の逸話に聞き入っていた記者だった。 洟を啜った記者は、表情を引き締めて告げる。 「魔法がまだ生きてるんなら、お姫様のキスで呪いがとける結末があったっていいじゃないですか」 「ちょっとばかりご都合主義じゃありませんこと?」 「死んでからでは遅い、とも思いません」 胡乱げなまなざしを受けて立ち、ひたむきな情熱で弁明に回る。 「カーラ・ウィンストンは本当の姿で死にたかった。あなたがそれを叶えた。老女の棺を囲んで子供と孫が号泣したところで誰も怪しみません、カーラ・ウィンストンは皆に惜しまれて大往生したと、大陸中の、いいえ、世界中の誰もが思うに決まってます。彼女は正しく死ねたんです」 記者の熱弁を受けた婦長は、哀しみを達観で濾した表情で窓を開け放ち、新しい季節を運ぶ風を部屋に入れる。 駒鳥の雛が巣立った青空の彼方に目を据え、婦長は喪に服す。 「取材をお受けしようかどうか本当は迷いました。ですがどうしてもこれだけはお伝えしたかったんです、大魔女カーラ・ウィンストンが決して巷間言われてるような素晴らしい人物ではないと。わがままで自分勝手、おまけに酷い偏食で看護婦たちの手を焼かせて、一旦癇癪をおこすと魔法で物を壊しまくるのにはほとほとまいりました。お母さんと呼ばれた朝も、娘の名前で叱られた昼も、苦しい痛いと訴え続け、離れられない夜もありました」 目を閉じて亡き友人の面影を回想、そよぐカーテンに映えて振り向いた婦長の顔は、清々しい笑みに輝いていた。 「美化も誇張も一切いりません。カーラ・ウィンストンの最期はとことん生き汚くあがき抜いた末の、それはそれは見事な大往生だったと、どうかありのままにお伝えくださいましね」
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