10話

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10話

本を開くと同時に中に挟まれた封筒が滑り落ちる。 婦長は軽く目を見張り、その場で封筒を破いて手紙を読む。 それはカーラが生前したためた、婦長へのあるお願いを書いた手紙だった。 婦長の顔が悲哀に歪む。 手紙を白衣の胸に押し付けて上を向き、目尻に滲んだ涙が引っ込むのを待ってからカーラの亡骸に被さり、まごころをこめたキスをする。 次の瞬間、不思議な事が起きた。 ベッドに横たわるカーラの亡骸、白花石膏さながらすべらかな肌が急速にしぼんで皺でたるみ、髪が根元から毛先にかけて真っ白に染まっていく。 婦長は驚愕する。 カーラの身体はひと回りも縮んでしまい、結晶のようにきらめく白髪が腰まで流れ、全ての変化が収束したあとベッドに寝ていたのは、不思議と満ち足りた表情の小柄な老婆だった。 反比例していた時計の針が正しく調整され、精神と身体が黄金律で噛み合った、生涯で一番美しいカーラ・ウィンストンの姿に見とれる。 死んだらもういちどキスをして。 それがカーラの願いだった。
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