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デイヴは三十六歳だが、カウンセラーの深刻な問題に関しては入社当初から──つまり十二年もの間──問題視していた。
ラウドシティきっての超巨大企業であるはずのU.C.R.社ですらも辞めていった産業医の後釜を用意できず、資格を持っているデイヴが数ヶ月間穴埋めをしたこともあった。当時は仕事量の多さに倒れるのではないかと思ったものだ。
デイヴが起業を考えるのは、ある種の現実逃避とも言えたし、切実なシティの現状をどうにかしたいと思うからでもあった。楽になりたいとも思っていた。
だがジルの言うとおり、見通しはまったく漠然としていて、ロボットに心理的な部分を担当させることは難しく、またデイヴ自身、ネガティブな理由をひっさげての起業は非常に危険であると考えている。
しかし、カウンセラーが少ないという事実そのものがネガティブからのスタートであり、起業の夢は初手から手詰まりだった──。
「なんだ、デイヴ、何をそんなにしけた顔をしている?」
熊のような野太い声に、デイヴはハッと我に返った。デイヴの横で警備部長のジュリアス・ディーヴァーと、彼の会社でのパートナーロボットであるUCR・NT-2000が歩いていた。
「ああ、いやいや、なんでもないよ。ちょっと疲れたね」
デイヴはやっと状況を理解した。先ほど会議が終わり、ジュリアスたちとともに退勤をするため廊下を歩いていたのだった。
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