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『うん。入籍したの。前に話していた人と』
「は? え? もしかして、前言ってたタカシさん?」
『そうだよ。で、ええっとその、式なんだけど──』
「ちょっと待て!」
ユージは声を裏返して叫んだ。
「マキさん、まだ結婚してなかったのかよ!?」
低く、鋭く、大きな声に、通行人たちがびくりと震えた。ユージは肩を縮こませながらスマートフォンの持ち手を右手から左手にスイッチした。
「どういうこと? 説明して。確かマキさんがシティまで俺に会いに来た時、『再婚する』って言ってたじゃん。あれ三年前のことじゃんか。そのあとずっと籍入れてなかったってこと? 何やってたの、その人と?」
『ご、ごめん。でも、別に大したことじゃないんだよ。生活を整えてから結婚したかったの。でもほら、同棲してると「やっぱりこのままでもいいかな」って気にもなるじゃない? 事実婚、って言うの? でもやっぱり籍は入れたほうがいいよね、なんて、話に戻ってね。五年も一緒にいられたんだし夫婦としてうまく行く確信が持てたって言うか……』
ユージは深く深いため息をついた。マキとは母親というより遠い親戚のような感覚で接していたことを、彼は今更ながらに後悔した。
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