ラウドシティ・オムニバス

Chapter３−３ 三人目の祝辞

　そうだった。篠宮牧はこういう人間だ。
　つまるところ、オーガスタス・カリヴァンというロクでもない人間と結婚にまで至った人間なのだ。人を見る目が究極的にないのだろう。前の夫が死ぬまで、居場所が知れることを恐れ他人の家を転々としてきた境遇のマキへつけ込んでくるどうしようもないロクデナシ男など、ごまんといるに決まっている。

「そいつがマキさんのことを本当に好きなら、三年もほったらかしにしとく？　同棲してるって言うけどさ。結婚してから豹変するやつだっているだろ。というか、覚えがあるだろっ！　そいつ、本当は結婚って形で責任を取りたくなくてズルズルと同棲生活を三年も引き延ばしてるんじゃないだろうな？」
『ひ、ひどいよ。そんな言い方ないでしょ。タカシさんはそんなんじゃないもん。会ってもいないのに決めつけちゃだめだよ』

　正論だ。会ったこともない人間の悪口を言っている自覚はユージにもあった。だが、自分を育てなかった母親に正論を言われたことに加え、自分の父親のことでナイーブになっていたせいか、その言葉はユージの言葉のたがをさらに外すことになった。

「なあマキさん、その人本当に大丈夫？　マキさんが捨てられるようなことがあったら俺、本当に耐えられないよ。また暴力を振るう人じゃないだろうな？　まともな人？　俺さ、この三年間マキさんへ特に何かしてきたわけじゃないからさ、別に息子ヅラをいまさらする気なんてこれっぽっちもないけどさ。一応、継父になる人だからさ。あいつみたいなやつは二度とごめんなわけ。まだ顔も見てないし、声も聞いてないよ」
『ご、ごめん』
「入籍しちゃったみたいだけど、もしもロクデナシだったら、あらゆる手段を使ってそいつを引き剥がすか、あるいは二度と連絡を取らないかの二択だからな」