50人が本棚に入れています
本棚に追加
2
ユージは〝会食〟の間、繋いだクリスティの手の感触もわからず、一緒に食べたはずの食事の味もわからず、会話もほとんど頭に残っていなかった。
両親共々(というかマキとタカシ共々)疎遠な息子(というかタカシにとっては疎遠な他人)に披露宴の席で挨拶をさせるという無神経さに憤っていたし、タカシがまともな人間で、自分がいくらかの事柄について論破されたという事実にも憤慨していたし、祝辞って何を言うんだっけと焦りもしたし、いやそもそも嫌なら断ればいいだろうがと自分をサンドバッグにした脳内罵声を繰り返していた。
ユージの心は忙しく立ち回り、疲弊していた。
帰り際になり、自動操縦車専用道路へ出て自動操縦車を捕まえたときになると、ユージはクリスティが帰ろうとしないことに気づいた。ユージは頭を掻いた。
「あれ、今日って俺ん家来る日だっけ」
「そうよ、忘れたの?」
クリスティは頬を膨らませ、先に乗り込んだ自動操縦車の後部座席からユージを見上げた。一方ユージは、自分の精神状況と置かれた状況、恋人が明日までいる状況を考えて気分がどんと急降下した。
ユージはおそるおそるクリスティのいる車内を覗き込んだ。
「あ、あのさ」
「なあに、ダーリン?」
クリスティの口調は語尾にハートマークでもつきそうな勢いだ。
「ダーリンはやめて」
今日のクリスはお酒を飲んでいないんだよな、とユージはクリスティが素面であるかどうか再確認した。今から言うことで相手が不機嫌にならないかどうか、ユージは緊張で動悸がした。
「その……今日はちょっと、俺のところに来てもらっても、おかまいできない、かも」
最初のコメントを投稿しよう!