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クリスティが身じろぎした。
「今日の朝の、電話のこと?」
「あ、ああ……そのことでちょっと頭が混乱してて。だから──」
「また今度にしましょうか」
「え?」
まともに視線を合わせられなかったユージがクリスティを見ると、彼女はふっと顔をほころばせたところだった。
「今日は家に帰るわ」
ユージは心底驚いた。
正直『意気地なし』だとか、『うそつき』だとか、『ユージのばか』だとか言いながら、泣き出されるかと思っていた。
「お、怒ってないのか? これ、ドタキャンだぞ」
「お互い、事情がありますもの。それに、黙ったまま家にお邪魔して、こちらが何を話しても不機嫌な顔をされたら、私もたまったものじゃないでしょう?」
「あ、うん」
「ねえ」
クリスティがシートを移動して、外に立つユージの眼前にまで距離を詰めてきた。
「正直に言ってくれて、ありがと。無理したり、何も言わず我慢されてしまったらどうしようかと思っていたわ。成長の証ね」
クリスティは腰を上げ、ユージへ軽くキスをした。
「それじゃあ、またね」
クリスティの「出して」との言葉に、ユージは呆然としながら自動操縦車から離れた。後部座席のドアが閉まり、あっという間に車は夜の道路へ滑り出していった。
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