Chapter3−3 三人目の祝辞

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 その後ユージはどうやって帰路についたのかまったく記憶になかったのだが、家に帰ると寝る準備も忘れて、スマートフォンでブラウザを立ち上げた。キーボードの言語を日本語にし、検索バーに『結婚』と入れ、『責任』の単語をサジェストする。  日本国におけるマキとタカシの結婚で、彼らの生活がどのように変化するのか。彼らが負う責任とはなんのか。三年間入籍を遅らせてきたのは、どういった責任に関わることなのか。タカシの『責任を取る』との言葉は、具体的になんなのか。  自分もいつか、責任を負うべきなのか。  ユージは頭の中でぐるぐると思考を巡らせた。  様々な検索結果が出てきた。  結婚をしたら同姓になる必要がある。つまり母親の篠宮牧はすでに『浦添牧』となっているはずだ。あるいは、浦添貴志が『篠宮貴志』になっている。それらに付随して、名前の表記が必要な手続きをすべて取る必要がある。住所変更、免許証の更新、各種契約の更新。  マキとタカシには同居によって共同生活を営まなければいけなくなる。ここは同棲という形でクリアはしている。  マキとタカシには扶養義務が生じる。どちらかの収入度合いによっては、扶養控除を申請することができる。  緊急連絡先にお互いを妻や夫として記載することができる。  保険や役所にはお互いの名前を伴侶として記載する義務と権利が生じる。  日本国は一夫一妻制なので、不倫や浮気は重大な問題となる。  どちらかが死亡した場合、遺産を受け取る権利が発生する。ユージはのけぞった。これはもしかして、書類上今もマキの息子である自分にも、タカシが死んだ場合の遺産の相続権利が発生するということではないか。  子供が生まれた場合、親権は夫婦共同となる。マキの年齢を考えるとこれから子供が生まれることはないと思うが、ユージは万が一、いや億分が一にも、血の半分だけ繋がった弟か妹ができる場面を想像し、鳥肌が立った。年の離れすぎた、赤の他人と結婚した疎遠な母親の子など、愛せる自信がない。  腹違いの兄・フィンセントが自分を愛してくれたのは、奇跡だ。
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