Chapter3−3 三人目の祝辞

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 ユージは再びソファに背中を預け、ぐるぐると考えた。事実婚と聞くとユージにはネガティブな印象しかなかったが、シティの契約婚は日本の事実婚よりもしっかりしているらしい。しかも法律婚よりラフだ。  しかし目下の問題は日本で結婚するマキとタカシのことだ。  マキとタカシは、お互いに対するすべての責任を負うと決めた。  五年も同居しているのだから、タカシはマキの性格に対してユージのようにイライラする性分ではないらしい。しかしマキが病気をすればそれらを見守る義務も発生するし、マキと結婚することは息子であるユージと関わりを持つ覚悟をしたということだろうし、自分がいつか死ねば自分のお金をマキへ遺すということであるし、すべて逆も然りだ。どれだけの困難が起こっても、仕事を辞めさせられても、災害が起きても、恐慌が起きても、タカシとマキはお互いを扶養し支えていくという責任を取ったということだ。『死が二人を分かつまで』。  一方の自分はどうだろう、とユージは考えてみる。  同居することになれば、クリスティには事故で半身不随となった父がいるから、介護のことをまず一番に考えなければならない。自分はギネス・センチネルとうまくやっていけるのか? 自分が邪魔にならないか? 相手はストレスを感じないだろうか? クリスは大丈夫だろうか。  しかも、万一子供ができれば、義父、パートナー、子供との同居生活を余儀なくされるだろう。  今の自分に介護と子育てを並行などできるのか? 今の年収で生活がままなるのか。  センチネル家では、UCR・センチネル・バトラーを使用することによるロボット労働力還元制度によって生活費が賄われているとのことだが、それらの財産を共有することになるのだろうか。いやそれ以前に──。  ユージは、無意識に服の上から自分の体に手を当てた。服の下の肌には無数の傷跡と、やけどの跡、凄惨な過去が刻まれている。心はもうずいぶんと回復したが、これらを家族に隠し通すのは難しい。
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